『脳外科医 竹田くん』の主人公・竹田くんについて、モデルとなった医師として報道されているのが、松井宏樹氏です。
2026年3月12日、テレビ朝日は有罪判決を報じたニュースの中で、松井被告が漫画のモデルとなった人物であると伝えました。赤穂市民病院の医療事故を継続的に取材してきた赤穂民報なども、松井氏の名前を報道しています。
ただし、漫画の登場人物と実在の関係者を完全に同一視することには注意が必要です。
作品では「赤池市」という架空の町にある市民病院が舞台となっており、医師や病院関係者も漫画上の人物として描かれています。実際の医療事故や病院組織の問題を題材にした作品ですが、医療記録や裁判記録そのものではありません。
モデル医師と漫画の関係- 実在の医師:松井宏樹氏
- 漫画の主人公:竹田くん
- 作品名:『脳外科医 竹田くん』
- 実際の舞台となった医療機関:兵庫県赤穂市の赤穂市民病院
- 漫画の公開時期:2023年1月~7月
- 漫画作者:2025年2月、被害患者の親族であることを公表した男性
特に重要なのは、作品が単に医師個人の技量を風刺するだけでなく、上級医による監督、病院の医療安全管理、事故発生後の説明責任など、組織全体の問題を扱っている点です。
【医療事故の全貌】2020年1月22日、赤穂市民病院で何が起きたのか

問題となった医療事故は、2020年1月22日に赤穂市民病院で発生しました。
当時74歳だった女性患者は、腰部脊柱管狭窄症の治療を目的として入院し、腰椎の一部を切除して神経への圧迫を軽減する手術を受けました。
執刀したのは、当時同病院の脳神経外科に勤務していた松井宏樹医師です。
手術中のドリル操作と神経損傷神戸地方裁判所姫路支部が2025年5月に公開した民事判決文には、手術中の状況が具体的に記されています。
判決文によると、松井医師は脊椎手術について、それまで助手として約100例の経験があった一方、執刀医として担当するのは今回が初めてでした。
手術では骨を削るために医療用ドリルを使用しましたが、出血などによって患部の視認性が十分に確保できない状態になりました。
その状況で十分な止血を行わずに骨の切除を続けた結果、ドリルが硬膜に接触。露出した馬尾神経を巻き込み、複数本の神経を切断損傷したと認定されています。
患者に残った後遺障害神経損傷による影響は深刻でした。
民事判決文によれば、患者には次のような障害が残りました。
- 両下肢の麻痺
- 自力で立ち上がることや歩行することができない状態
- 重度の膀胱・直腸障害
- 腰部から両下肢にかけての神経障害性疼痛
- 継続的な投薬や介護を必要とする状態
後遺障害の程度は、自動車損害賠償保障法施行令の別表第一における1級1号相当と認定されました。
これは神経系統に著しい障害が残り、常時介護を必要とする状態に相当します。
単なる術後の合併症という説明だけでは、この事故の重大性を十分に理解できません。
裁判所が認定したのは、視認性が悪い状況で止血を十分に行わず、神経を損傷する危険がある操作を続けたという具体的な注意義務違反でした。
事故は執刀医個人の問題だけだったのかもう一つ注目すべきなのが、病院の医療安全管理体制です。
松井医師が2019年7月に着任してから、病院の医療安全推進室は2020年2月までに、同医師が担当した手術に関連する8件の医療事故を病院長に報告していました。
病院長は同月、手術の中止を指示しています。
加えて、その後の調査では合計11事例が検証対象となり、2023年3月の赤穂市民病院ガバナンス検証委員会は、病院の医療安全の取り組みが十分に機能していなかったと評価しました。
ここで注意したいのは、11事例すべてについて松井医師の過失が裁判で認定されたわけではないことです。
今回の刑事裁判で有罪となったのは、2020年1月22日の腰椎手術に関する業務上過失傷害事件です。
【人物・組織の関係一覧】松井宏樹氏、漫画作者、病院、裁判所の関係
事件を理解するには、実在する人物・組織と漫画上の設定を分けて把握する必要があります。
| 対象・主体 | 実際の関係 | 確認されている事実 |
|---|---|---|
| 松井宏樹氏 | 元脳神経外科医・元執刀医 | 2020年の手術事故で業務上過失傷害罪の有罪判決 |
| 竹田くん | 漫画の主人公 | 松井氏がモデルと報道されている |
| 漫画作者 | 被害患者の親族 | 2025年2月に作者であることを公表 |
| 赤穂市民病院 | 事故発生当時の勤務先 | 医療安全管理体制も検証対象となった |
| 神戸地裁姫路支部 | 民事・刑事裁判の担当裁判所 | 約8900万円の賠償命令と刑事有罪判決 |
| 神戸地検姫路支部 | 刑事事件の検察機関 | 医療事故事件を起訴、漫画関連の告訴は不起訴 |
- 2019年7月:松井医師が赤穂市民病院の脳神経外科に着任。
- 2020年1月22日:腰椎手術中に患者の馬尾神経を損傷。
- 2020年2月:病院が複数の医療事故を把握し、手術中止を指示。
- 2021年8月:松井医師が赤穂市民病院を依願退職。
- 2023年1月~7月:ウェブ漫画『脳外科医 竹田くん』を公開。
- 2024年12月27日:神戸地検姫路支部が松井医師を業務上過失傷害罪で在宅起訴。
- 2025年2月:漫画作者が被害患者の親族であることを公表。
- 2025年3月5日:漫画作者が大阪地裁に債務不存在確認訴訟を提起。
- 2025年5月14日:民事裁判で約8888万円の賠償命令。
- 2025年5月31日:民事判決が確定。
- 2026年2月20日:漫画作者らに対する名誉毀損などの刑事告訴が不起訴となる。
- 2026年3月12日:松井被告に禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決。
- 2026年3月27日:刑事判決が確定。
- 2026年4月1日:松井氏が元上司と赤穂市を訴えた別の民事訴訟について、大阪高裁が控訴を棄却したと報道。
【2026年の裁判結果】禁錮1年・執行猶予3年の有罪判決が確定
今回の事件では、民事裁判と刑事裁判という2つの重要な司法判断が出ています。
両者は目的も判断内容も異なるため、分けて理解する必要があります。
1.刑事裁判は2026年3月12日に有罪判決松井被告は2024年12月27日、業務上過失傷害罪で在宅起訴されました。
2026年2月9日の初公判では、起訴内容をおおむね認めています。
その後、2月18日の論告求刑公判で検察側は禁錮1年6か月を求刑しました。
一方、弁護側は手術がチームで行われるものであり、助手を務めた上級医にも責任があると主張しました。
そして、2026年3月12日、神戸地裁姫路支部の佐藤洋幸裁判長は、松井被告に対して次の判決を言い渡しました。
刑事裁判の判決内容禁錮1年
執行猶予3年
検察側の求刑
禁錮1年6か月
判決日
2026年3月12日
判決確定日
2026年3月27日
判決では、十分な止血を行わず、視認性が確保できない状態でドリルによる切削を続けたことが事故の原因として認定されました。
2.2026年3月27日に有罪判決が確定判決に対する控訴期限は3月26日でした。
しかし、松井被告側も検察側も控訴しませんでした。
その結果、翌27日に神戸地裁姫路支部の有罪判決が確定しました。
したがって、2026年11月4日現在、この刑事事件については、第一審判決が確定した状態です。
3.民事裁判では約8900万円の賠償命令刑事裁判に先立ち、被害女性と家族は松井医師と赤穂市に損害賠償を求める民事訴訟を起こしていました。
2025年5月14日、神戸地裁姫路支部は被告側に連帯して損害賠償金を支払うよう命じました。
裁判所が示した金額は次のとおりです。
| 賠償対象 | 判決で命じられた金額 |
|---|---|
| 被害女性 | 8668万6851円 |
| 被害女性の長女 | 220万円 |
| 合計 | 8888万6851円 |
このほか、2020年1月22日から支払い済みまでの年5%の遅延損害金も命じられています。
2025年5月31日付で民事判決も確定しました。
ここで重要なのは、約8900万円という金額が刑事罰ではなく、民事裁判で命じられた損害賠償額だという点です。
刑事裁判は犯罪に対する刑罰を判断するもの、民事裁判は被害者側に生じた損害の賠償を判断するものです。
2つの裁判で、それぞれ責任が判断されたことになります。
【松井宏樹氏の現在】退職後の勤務状況と医師免許の行政処分
検索されることが多いのが、松井宏樹氏が現在どこで働いているのか、医師として診療を続けているのかという疑問です。
2026年2月の公判で明らかになった勤務状況赤穂民報の2026年2月12日の報道によると、松井被告は2021年8月に赤穂市民病院を依願退職した後、大阪市内の医療機関を経て、吹田市内の病院に勤務していました。
しかし、吹田市内の病院も2025年10月に退職し、同年2月の公判時点では無職だったと報じられています。
公判では、退職に至った事情について本人が説明したほか、今後の働き方についても質問を受けました。
その際、外科医として再び手術を行うことには消極的な考えを示し、医師免許を返納することについては、当時は考えていないと説明しました。
報道で確認できる勤務経歴
2019年7月~2021年8月
赤穂市民病院・脳神経外科
退職後
大阪市内の医療機関に勤務
その後~2025年10月
吹田市内の病院に勤務
2026年2月12日の公判時点
無職と報道
2026年2月の公判報道に基づく情報。11月現在の就業状況を示すものではありません。
2026年4月には、松井氏が赤穂市民病院在籍中の上司による暴行や専門医試験の受験妨害などを主張して提起した別の民事訴訟について、大阪高裁が控訴を棄却したことも報道されています。
この訴訟は、被害患者側が起こした損害賠償訴訟とは別のものです。
医師免許は取り消されたのか?ここは非常に要点です。
刑事事件で有罪判決が確定したことと、医師免許が取り消されることは同じではありません。
医師免許に関する行政処分は、医道審議会の審議などを経て、厚生労働大臣が判断する別の手続きです。
医師法第7条では、医師に対する行政処分として次の3種類を定めています。
| 行政処分 | 内容 |
|---|---|
| 戒告 | 医師としての責任を戒める処分 |
| 医業停止 | 最長3年間、医業を停止する処分 |
| 免許取消 | 医師免許を取り消す処分 |
2026年3月14日の弁護士ドットコムの報道では、専門家が、刑事有罪判決の確定は医道審議会の判断に影響し、医師免許取消の可能性もあると解説しています。
ただし、医療過誤による免許取消は珍しく、個別の事情を踏まえた判断が必要です。
また、厚生労働省が公開した2026年7月15日の医道分科会議事要旨には、医師8人に対する行政処分の答申が記載されています。
一方、公開議事要旨では個別の処分対象者の氏名が確認できません。そのため、この資料だけから松井氏が処分対象になったかどうかを断定することはできません。
したがって、2026年11月4日時点で押さえておきたいのは次の違いです。
- 刑事有罪判決:確定済み。
- 医師免許の自主返納:2026年2月の公判では考えていないと説明。
- 医道審議会による個別の行政処分:松井氏に対する処分内容を確認できる公表資料は特定できない。
有罪判決が確定したからといって、自動的に医師免許が取り消されるわけではありません。
【漫画作者と不起訴処分】名誉毀損をめぐる刑事告訴の結末
『脳外科医 竹田くん』をめぐっては、モデル医師と漫画作者の間でも法的な争いが起きていました。
漫画作者は被害女性の親族だった2023年に公開された漫画は、当初、作者が誰なのか明らかにされていませんでした。
しかし2025年2月、作者の男性は自身が赤穂市民病院で起きた医療過誤の被害女性の親族であることを公表しました。
作者の声明によれば、医療事故や病院内の問題について、当事者や関係者から情報を得て作品を制作したとのことです。
作品は架空の町や登場人物を設定したフィクションですが、実際の医療事故と病院の対応をモチーフにしています。
2025年3月、作者が大阪地裁に提訴作者は2025年3月5日、漫画の表現が名誉毀損に当たらないことを確認するため、大阪地裁に債務不存在確認訴訟を起こしました。
この背景には、モデル医師側による発信者情報開示請求がありました。
報道によれば、東京地裁が2024年6月に開示を命じ、同年7月に漫画作者の氏名や住所が医師側に開示されていました。
作者側は、作品には公共性や公益性があり、実際の医療事故や病院の問題を伝える目的があると主張しています。
2026年2月20日、漫画作者らが不起訴に加えて、松井氏は2025年7月、漫画作者、被害患者の長女、赤穂市民病院在籍当時の上司を名誉毀損や信用毀損などの疑いで刑事告訴していました。
しかし、2026年2月20日付で、神戸地検姫路支部はいずれも不起訴と決定しました。
この事実は、赤穂民報が2026年3月2日に報道しています。
ここで誤解してはいけないのが、不起訴と無罪判決の違いです。
- 不起訴:検察が刑事裁判にかけないと判断すること。
- 無罪:刑事裁判で審理した結果、犯罪の成立が認められないと判断されること。
今回の不起訴は、漫画作者らに対する刑事裁判が開かれなかったことを意味します。
したがって、不起訴だけで漫画のすべての表現が裁判所によって真実と認定されたわけではありません。
また、作者側が起こした債務不存在確認訴訟は、刑事告訴とは別の民事手続きです。刑事事件の不起訴と民事上の名誉毀損の判断は、区別して理解する必要があります。
【脳外科医竹田くんの実名に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:『脳外科医 竹田くん』のモデル医師の実名は誰ですか?
A1:報道されている実名は松井宏樹氏です。2026年3月12日のテレビ朝日の報道でも、漫画のモデルとなった医師として松井被告の名前が伝えられています。
Q2:松井宏樹氏の有罪判決は確定していますか?
A2:はい。2026年3月12日に禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決が言い渡され、3月27日に確定しました。
Q3:被害女性への損害賠償はいくらですか?
A3:2025年5月14日の民事判決では、被害女性に8668万6851円、長女に220万円、合計8888万6851円の支払いが命じられました。判決は同月31日に確定しています。
Q4:松井氏の医師免許は取り消されましたか?
A4:刑事判決は確定していますが、刑事判決の確定と医師免許の取消は別の手続きです。2026年11月4日時点で、松井氏個人に対する免許取消処分を確認できる公表情報は特定できません。
Q5:漫画の作者は誰ですか?
A5:2025年2月に、作者自身が被害女性の親族であることを公表しています。報道で確認できるのはこの関係性であり、作者の実名を特定する必要はありません。
Q6:漫画作者への名誉毀損の刑事告訴はどうなりましたか?
A6:神戸地検姫路支部が2026年2月20日付で不起訴としました。作者だけでなく、被害患者の長女と病院在籍当時の上司についても不起訴と報じられています。
『脳外科医 竹田くん』のモデル医師として報道されているのは、松井宏樹氏です。
この問題は、漫画の話題性だけでなく、実際の医療事故、患者に残された重大な後遺障害、病院の医療安全管理、刑事責任、民事上の賠償責任という複数の問題が重なっています。
2026年11月現在、確認できる主な司法上の結果は次の3点です。
1. 刑事裁判:松井氏に禁錮1年・執行猶予3年の有罪判決が確定。
2. 民事裁判:被害女性と長女に対する合計約8888万円の賠償命令が確定。
3. 漫画関連の刑事告訴:作者ら3人に対する告訴は不起訴処分。
今後の注目点は、医道審議会による行政処分の有無、医師免許に関する正式な判断、漫画をめぐる民事上の争いの行方です。
この事件から考えるべき本質は、医療事故を起こした個人の責任だけではありません。 医療機関が危険の兆候をどの段階で把握し、手術を止め、情報を共有し、患者を守る仕組みを機能させられるかという問題です。
『脳外科医 竹田くん』が社会に投げかけた問いは、実際の裁判で明らかになった事実とともに、医療安全のあり方を考える重要な材料になっています。