「死んだ息子の名前が草」というインパクトの強いネットミームをご存じでしょうか。実は、このフレーズの元ネタは、2018年1月13日に実施された大学入試センター試験の国語第2問です。出題されたのは、直木賞作家・井上荒野の小説「キュウリいろいろ」。物語に登場する亡くなった息子の名前が「草」だったことから、ネット上で大きな話題になりました。
加えて、作品にはお盆のキュウリの馬や、夫を亡くした女性の複雑な心情も描かれています。2026年現在も検索されるこの言葉には、名前としての「草」と、笑いを意味するネットスラングの「草」という二重の意味が隠されています。
【元ネタは何?】「死んだ息子の名前が草」は2018年センター試験の小説だった
このフレーズの元ネタは、2018年度大学入試センター試験の国語にあります。
出題されたのは、井上荒野が執筆した「キュウリいろいろ」という作品です。
ここで最初に押さえておきたいのは、「死んだ息子の名前が草」という言葉が、作品の正式タイトルでも、作者が付けたキャッチコピーでもないという点です。
試験問題の内容を見た受験生やネットユーザーが、物語の設定を短く表現したことから広まったネット上の呼び名です。
亡くなった息子の名前が本当に「草」だったセンター試験の問題文には、主人公の郁子について、35年前に息子を亡くし、その後は夫婦二人で暮らしてきたと説明されています。
そして、物語の冒頭では、郁子が亡くなった息子と夫の写真の前に、キュウリで作った二頭の馬を置きます。
息子については、問題文の中で「草」という名前が明確に登場します。
つまり、ネットユーザーが勝手に名前を付けたわけではありません。
「草」は作品に登場する息子の固有名詞です。
作品の正式なタイトルは「キュウリいろいろ」「キュウリいろいろ」は、2011年9月に角川春樹事務所から刊行された『キャベツ炒めに捧ぐ』に収録されています。
この本は、惣菜店「ここ家」で働く3人の女性たちの人生を料理とともに描いた小説です。
「キュウリいろいろ」は、その中の第10章に当たります。
作品名だけを見ると、キュウリ料理を紹介するエッセーのようにも感じられますが、実際には家族の死や夫婦の関係、残された人間の孤独を扱った物語です。
【草の意味と読み方】名前の「草」とネットスラングは別物?
「死んだ息子の名前が草」が話題になった最大の理由は、日本語の「草」に二つの意味が重なったことです。
1.名前としての「草」作中の「草」は、主人公・郁子が35年前に亡くした息子の名前です。
ネット上では「草(そう)」と読む名前として紹介されることがあります。
ただし、2018年のセンター試験の出題本文には読み仮名が付いていません。そのため、試験問題だけを根拠に正式な読み方を断定することはできません。
ここは、名前としての「草」と、ネットスラングとしての「草」を区別するうえで押さえておきたいポイントです。
2.ネットスラングとしての「草」一方、インターネットで使われる「草」は、笑いや面白さを表す言葉です。
「それは草」「面白すぎて草」といった使い方をします。
その由来は、次のような文字表現の変化にあります。
- (笑):笑いを表す従来の表現
- w:warai(わらい)の頭文字
- www:笑いが大きいことを表現
- 草:連続したwが草原のように見えることから生まれた表現
三省堂の「今年の新語2017」でも「草」は選出され、笑いを表す俗語として解説されています。
3.なぜ「死んだ息子の名前が草」で笑いが生まれたのか面白さの正体は、文脈の食い違いです。
普通にネットで「草」と書けば、「笑える」という意味に受け取られます。
ところが、この話では「草」が亡くなった息子の名前です。
つまり、次の二つが同時に成立してしまいます。
| 表現 | 意味 |
|---|---|
| 息子の名前が草 | 小説に登場する人物の名前 |
| 名前が草で草 | 名前の偶然の一致を面白がるネット上の反応 |
悲しい物語の設定と、軽い笑いを表すネット用語の組み合わせ。このギャップが、短いフレーズだけで状況を伝えられるミームになった理由です。
【2018年センター試験の経緯】いつ、どの問題で話題になった?
2018年のセンター試験は、1月13日と14日に実施されました。
「キュウリいろいろ」が出題されたのは、初日の国語です。
大学入試センターの平成30年度試験情報でも、当時の試験実施日が確認できます。
話題になった出来事を時系列で整理2018年度センター試験の国語は、次の4つの大問で構成されていました。
- 第1問:評論
- 第2問:小説
- 第3問:古文
- 第4問:漢文
「キュウリいろいろ」が登場した第2問は、50点満点の小説問題でした。試験分析資料によると、設問は6問、マーク数は9でした。
受験生にとっては、通常の読解問題として登場した小説が、試験終了後には思いがけない方向で注目されることになったのです。
【キュウリいろいろのあらすじ】郁子と亡くなった息子・草、夫・俊介の物語
ここからは、ネットミームの背景にある物語を整理します。
「キュウリいろいろ」は、単に珍しい名前の登場人物が出てくる作品ではありません。
物語の中心にあるのは、長い年月をかけても消えない喪失感と、夫婦の間に残された感情です。
主人公・郁子は二人の家族を亡くしている主人公の郁子は、35年前に息子の草を亡くしています。
その後、夫の俊介と二人で暮らしてきましたが、夫も前年に亡くなりました。
物語は、郁子が初めて一人でお盆を迎える場面から始まります。
息子を亡くしてから35年間、郁子は毎年キュウリで馬を作り続けてきました。
今年は亡くなった夫のためにも馬を用意します。
写真の前に並べられた二頭の馬は、彼女にとって単なるお盆の飾りではありません。
亡くなった二人に帰ってきてほしいという願いが込められたものです。
夫・俊介との間にあった複雑な感情作品の重要な場面の一つが、郁子と俊介の過去の会話です。
郁子はキュウリの馬を作っていた際、夫から、細かなことを熱心にするのだとからかわれます。
そこで郁子は、息子と一緒に自分もあの世へ行けるように立派な馬を作っているのだと話します。
しかし、その発言を聞いた俊介は、無邪気な表情を消し、暗く寂しい顔になります。
加えて、夫は一度だけ「別れようか」と口にします。
この言葉に郁子は驚き、すぐに拒絶します。
ここには、息子を亡くした悲しみを共有しながらも、同じ形では受け止められなかった夫婦の姿があります。
郁子の言葉には、深い悲しみと夫への甘え、そして自分でも制御できない感情が入り交じっています。
俊介の高校時代の同級生との出会い物語は、亡くなった俊介の高校時代の同級生から写真を求める電話がかかってくることで動きます。
同級生は、学校の名簿を作るために俊介の写真を必要としていました。
郁子は写真を整理し、俊介の過去をたどることになります。
そこで浮かび上がるのは、自分が知らなかった夫の表情や、夫が自分と過ごした時間に抱いていた感情です。
この展開によって、物語は単なる悲しい家族の話から、亡くなった人を残された側がどう記憶し直すかというテーマへ広がっていきます。
【キュウリの馬の意味】お盆の風習が物語の重要な鍵になっている
「キュウリいろいろ」を理解するうえで欠かせないのが、お盆の精霊馬という風習です。
なぜ郁子は、キュウリで馬を作るのでしょうか。
キュウリの馬とナスの牛の意味お盆には、キュウリやナスに割り箸や麻の茎などを差し、動物に見立てて飾る習慣があります。
これは一般に「精霊馬」「精霊牛」と呼ばれます。
| 飾り | 見立て | 一般的な意味 |
|---|---|---|
| キュウリ | 馬 | ご先祖様に早く帰ってきてもらう |
| ナス | 牛 | ご先祖様にゆっくり帰ってもらう |
馬は足が速く、牛は歩みがゆっくりというイメージから、それぞれの乗り物に見立てています。
ただし、地域によって風習や意味の伝承には違いがあります。
郁子が二頭のキュウリの馬を作った理由一般的な精霊馬の習慣では、キュウリの馬で迎え、ナスの牛で送り出すという考え方があります。
しかし、郁子が用意するのは二頭のキュウリの馬です。
その背景には、息子と夫に帰ってきてほしいという気持ちがあります。
加えて、作品中では、息子と一緒に自分も連れていってほしいという願いまで語られます。
この場面を単に「お盆の飾りを作っている」と読むだけでは、郁子の感情を十分に理解できません。
二頭の馬は、長年抱えてきた息子への思いと、夫を亡くしたばかりの孤独を象徴する存在なのです。
タイトル「キュウリいろいろ」に込められた意味作品のタイトルも印象的です。
キュウリという日常的な野菜が、物語の中では亡くなった家族を迎えるための特別な存在になります。
料理や食材を題材にした『キャベツ炒めに捧ぐ』という作品全体の構成ともつながっています。
何気ない食材や生活習慣を通じて、人間の記憶や感情を描くところに井上荒野の小説の特徴があります。
【2018年センター試験のTwitter反応】なぜ「ヤンデレ」「息子の名前が草」と話題になった?
2018年1月13日の試験終了後、Twitterでは国語の出題内容に関する反応が相次ぎました。
当時のリセマムの報道でも、受験生が「キュウリいろいろ」のタイトルや、主人公の印象的な発言に反応していたことが紹介されています。
「ヤンデレ」という表現が広がった背景ネット上では、郁子の言動を「ヤンデレ」と表現する反応も見られました。
ヤンデレとは、好きな相手への強い愛情や執着が、極端な言動として現れるキャラクターを指すネット上の表現です。
郁子の場合、亡くなった息子への思いが非常に強く、夫との関係にもその悲しみが影響しています。
特に、夫から別れを切り出された際の反応や、夫を自分の気持ちから逃げようとしていると捉える場面が、受験生の印象に残りました。
ただし、作品全体を読むと、単純に「ヤンデレの女性が登場する話」と片付けられるものではありません。
息子を失った悲しみ、夫婦間のすれ違い、孤独などが積み重なった結果として、郁子の複雑な心理が描かれています。
作者の井上荒野も試験当日に反応興味深いのは、作者本人も出題を知っていたことです。
2018年1月13日、井上荒野は自身のTwitterアカウントで、センター試験に自分の小説が出題されたことに触れ、受験生に向けて問題が解けたかを尋ねました。
加えて、その日の夕方には試験中に感想を知らせてくれた受験生への感謝と、良い結果を願うメッセージも投稿しています。
作者自身が受験生の反応に目を向けていたことも、当日の話題を印象づける出来事でした。
なぜ今も検索されるのかこのミームが記憶に残りやすい理由は、大きく三つあります。
1. 名前のインパクト: 亡くなった息子の名前が「草」という意外性。
2. 物語の設定: お盆のキュウリの馬や夫婦の複雑な関係が強い印象を残す。
3. ネット文化との相性: 短い言葉だけで状況を説明でき、コメントやまとめ記事で扱いやすい。
特にセンター試験は毎年SNSで問題の内容が話題になりやすく、過去の印象的な出題が翌年以降も振り返られます。
そのため、この言葉は2018年の一時的な話題にとどまらず、センター試験の印象的なエピソードとして残っています。
【誤解しやすいポイント】「死んだ息子の名前が草」の本当の意味
ここでは、検索する人が間違えやすいポイントを整理します。
誤解1:息子の名前がネットスラングの「草」だった?これは違います。
作品に登場する「草」は人物の名前です。
ネットスラングの「草」は、笑いを意味する言葉です。二つの意味が偶然重なったことが面白さの理由です。
誤解2:「キュウリいろいろ」はセンター試験のために書かれた作品?これも違います。
『キャベツ炒めに捧ぐ』は2011年9月に刊行されています。
センター試験への出題は、その約6年後の2018年です。
つまり、試験向けに書かれた作品ではなく、すでに出版されていた小説の一節が採用されたということです。
誤解3:作品そのものがギャグ小説だった?これも誤解です。
ネットで広まったフレーズはコミカルですが、原作の中心にあるのは家族を亡くした人間の悲しみです。
主人公の言動にユーモラスな印象を持つ読者がいる一方で、物語の根底には深い喪失感があります。
ネット上の短いまとめだけでは、作品の本来のテーマを十分に理解できません。
【プロの結論】ミームと原作を分けて理解することが大切この話題を正しく理解するための判断基準は、次の3点です。
- 元ネタを知りたいなら、2018年センター試験国語第2問を確認する。
- 「草」の意味を知りたいなら、人物名とネットスラングを区別する。
- 物語の本質を知りたいなら、『キャベツ炒めに捧ぐ』を読む。
ネットミームとしては笑える表現でも、その背景には家族を失った人の切実な感情があります。
この二つの側面を理解することが、作品を正しく楽しむためのポイントです。
【よくある質問】「死んだ息子の名前が草」に関するFAQ
Q1:死んだ息子の名前が草の元ネタは何ですか?
A1:2018年1月13日の大学入試センター試験、国語第2問です。井上荒野の小説「キュウリいろいろ」から出題され、主人公・郁子の亡くなった息子の名前が「草」だったことからネットで話題になりました。
Q2:息子の名前の「草」は何と読みますか?
A2:ネット上では「そう」と紹介されることがあります。ただし、センター試験の問題文にはルビがないため、試験問題だけでは正式な読み方を確定できません。
Q3:キュウリいろいろはどの本に収録されていますか?
A3:井上荒野の『キャベツ炒めに捧ぐ』です。2011年9月に角川春樹事務所から刊行された作品で、「キュウリいろいろ」は第10章に当たります。
Q4:キュウリの馬を作る理由は何ですか?
A4:お盆にご先祖様の霊を迎えるための乗り物に見立てる風習です。一般的には、足の速い馬に乗って早く帰ってきてもらうという意味があります。
Q5:なぜTwitterでヤンデレと呼ばれたのですか?
A5:主人公・郁子の亡くなった息子への強い思いや、夫との複雑な会話、印象的な言動が受験生の注目を集めたためです。ただし、作品全体は家族の喪失や孤独を描く小説です。
Q6:作者の井上荒野はどんな作家ですか?
A6:1961年東京都生まれの小説家です。2008年に『切羽へ』で第139回直木賞を受賞しています。『潤一』『あちらにいる鬼』などの作品でも知られています。
Q7:2026年現在も話題になっているのですか?
A7:この言葉の元ネタは2018年のセンター試験です。2026年の新しい事件や出来事ではなく、過去の入試問題に由来するネットミームとして理解するのが正確です。
「死んだ息子の名前が草」というフレーズの元ネタは、2018年のセンター試験国語第2問に出題された井上荒野の「キュウリいろいろ」です。
作中では、主人公・郁子が35年前に亡くした息子の名前が「草」と設定されています。加えて、夫の俊介も亡くなり、初めて一人で迎えるお盆に二頭のキュウリの馬を作るという物語が展開します。
ネットで話題になった理由は、名前としての「草」と、笑いを意味するネットスラングの「草」が重なったことでした。
しかし、原作は決して単なるギャグ作品ではありません。家族を失った悲しみや、夫婦のすれ違い、亡くなった人を思い続ける心を描いた小説です。
このフレーズの面白さは言葉の偶然にあり、作品の本当の魅力はその奥にある人間ドラマにあります。
2018年のセンター試験をきっかけに生まれたこの話題をより深く理解したいなら、ぜひ原作『キャベツ炒めに捧ぐ』の「キュウリいろいろ」を読んでみてください。