2026年現在、日常の買い物や金融機関の窓口で目にする機会が増えた新一万円札。2024年7月3日に発行された新しい日本銀行券は、約20年ぶりの刷新によって、肖像、裏面の図柄、偽造防止技術、ユニバーサルデザインが大きく進化した。表面には「日本近代経済の父」と呼ばれる渋沢栄一、裏面には東京駅の丸の内駅舎が描かれている。
特に注目したいのが、銀行券では世界初となる3Dホログラムと、従来より精密になった高精細すき入れだ。一方、旧福沢諭吉の一万円札は2026年現在も使用でき、発行終了と通用停止はまったく別の話である。新旧の違いから本物を見分ける方法、歴代一万円札の変遷、最新の製造・流通状況まで、公式資料をもとに整理する。
【基本情報】新一万円札はいつ発行された?2024年7月3日の改刷とF一万円券の特徴

新一万円札の発行開始日は2024年7月3日。日本銀行が発行し、独立行政法人国立印刷局が製造する新しい日本銀行券の一つだ。
今回の改刷は2004年11月以来、約20年ぶり。新一万円札は、発行順を示す記号で「F一万円券」と呼ばれている。戦後の銀行券をAからFまで区別する分類に基づく名称であり、Fは今回の新しいシリーズを表す。
新一万円札の基本スペック国立印刷局が公表している基本仕様は次のとおり。
- 券種:F一万円券
- 発行開始日:2024年7月3日
- 表面の肖像:渋沢栄一
- 裏面の図柄:東京駅(丸の内駅舎)
- 寸法:縦76mm×横160mm
- 記番号の色:黒色
- 主な新技術:3Dホログラム、高精細すき入れ
意外に知られていないのが、新一万円札と2004年発行の福沢諭吉の一万円札は、紙幣の大きさが同じという点だ。縦76mm、横160mmという寸法は変更されていない。
つまり、今回の改刷は紙幣を大型化するのではなく、偽造防止技術や識別性を高めながら、デザインを一新する方向で実施された。
なぜ20年ぶりに新しい紙幣が登場したのか紙幣の改刷には、偽造への対抗だけでなく、利用者が安心して現金を使える環境を維持する目的がある。
今回の改刷では、偽造防止技術の高度化と、年齢や障害の有無、国籍などにかかわらず識別しやすいデザインの導入が重視された。
日本銀行は、財務省、国立印刷局、金融機関、警備輸送会社、金銭機器メーカーなどと連携し、新紙幣を円滑に流通させるための準備を進めてきた。日本銀行の2024年6月公表資料によれば、準備には約5年をかけている。
【肖像とデザイン】渋沢栄一は何をした人?東京駅が裏面に選ばれた理由
新一万円札の最大の変化は、長年親しまれてきた福沢諭吉から渋沢栄一への肖像変更だ。
渋沢栄一は1840年に現在の埼玉県深谷市で生まれ、1931年に91歳で亡くなった実業家である。銀行、企業、教育、社会福祉、民間外交など、幅広い分野で近代日本の基盤づくりに携わった。
渋沢栄一は約500社の企業に関わった実業家渋沢栄一の代表的な功績として挙げられるのが、近代的な企業制度と金融システムの発展への貢献だ。
明治維新後、政府の大蔵省で新しい国づくりに関わった後、1873年に第一国立銀行の設立に携わり、総監役、のちに頭取を務めた。
その後も東京株式取引所、東京商法会議所などの設立・運営に関与。渋沢栄一記念財団によれば、生涯に約500の企業に関わったとされる。ただし、500社すべてを自ら創業したわけではなく、設立への助言、出資、人材の仲介、経営への参加など、関与の形はさまざまだった。
加えて、企業活動だけにとどまらず、約600の教育機関や社会公共事業にも関わった。全国社会福祉協議会の資料でも、渋沢が1908年に設立された中央慈善協会の初代会長を務めたことが紹介されている。
彼の思想を象徴するのが「道徳経済合一説」だ。利益を追求する経済活動と社会的な道徳を対立させず、両立させるべきだという考え方である。
新一万円札に採用された背景には、単なる経済界の功労者というだけでなく、企業活動と社会貢献を結びつけた人物としての歴史的評価がある。
裏面の東京駅・丸の内駅舎はなぜ選ばれた?新一万円札の裏面には、東京駅の丸の内駅舎が描かれている。
この建物は建築家・辰野金吾の設計によって1914年に完成した歴史的建造物だ。赤レンガを特徴とする外観から「赤レンガ駅舎」の愛称でも親しまれている。
丸の内駅舎は2003年に国の重要文化財に指定された。第二次世界大戦中の空襲によって一部が焼失したものの、復原工事が2012年に完了し、創建当時の姿を伝える建築物として再生した。
表面に近代経済を支えた人物、裏面に近代日本の交通・都市発展を象徴する建築物を配置した点は、今回の紙幣デザインの特徴といえる。
【新旧一万円札を徹底比較】福沢諭吉と渋沢栄一の違い・歴代紙幣の発行経緯
新一万円札と旧一万円札の違いは、肖像だけではない。裏面の図柄、ホログラムの形状、すき入れ、識別マーク、記番号などにも変更が加えられている。
新一万円札と2004年発行の旧一万円札の比較| 比較項目 | 新一万円札(F券) | 旧一万円札(E券) |
|---|---|---|
| 発行開始日 | 2024年7月3日 | 2004年11月1日 |
| 表面の肖像 | 渋沢栄一 | 福沢諭吉 |
| 裏面の図柄 | 東京駅・丸の内駅舎 | 平等院鳳凰堂の鳳凰像 |
| 寸法 | 76×160mm | 76×160mm |
| ホログラム | ストライプ型3Dホログラム | パッチ型ホログラム |
| すき入れ | 肖像と高精細すき入れ | 肖像のすき入れ |
| 識別マーク | 11本の斜線・左右中央 | かぎ型・左右下側 |
| 額面数字 | 大型のアラビア数字 | 従来のデザイン |
| 記番号 | 黒色 | 黒色・褐色の仕様がある |
| 2026年現在の扱い | 有効 | 有効 |
特に注目したいのがホログラムの違いだ。旧札にもホログラムは採用されていたが、新札では立体的な肖像が回転して見えるストライプ型に進化した。
また、新札は額面数字を大きく表示することで、金額を視覚的に把握しやすくしている。
歴代一万円札の肖像と発行経緯新一万円札の歴史を理解するには、渋沢栄一以前の肖像も押さえておきたい。
- 1958年12月1日:C一万円券。肖像は聖徳太子。裏面には彩紋が描かれた。
- 1984年11月1日:D一万円券。肖像は福沢諭吉。裏面は2羽のキジ。
- 2004年11月1日:E一万円券。引き続き福沢諭吉を採用。裏面は平等院の鳳凰像となり、ホログラムなどの偽造防止技術も強化された。
- 2024年7月3日:F一万円券。渋沢栄一に変更され、東京駅の丸の内駅舎と最新の偽造防止技術が採用された。
福沢諭吉の一万円札は1984年と2004年の2種類が存在する。肖像が同じため混同されやすいが、裏面を確認すると区別できる。
1984年発行のD券はキジ、2004年発行のE券は鳳凰像が描かれている。どちらも現在有効な銀行券だ。
なお、発行停止と通用停止は異なる。発行停止は新たに製造・発行しなくなることを指し、通用停止はその紙幣が法的に支払いに使えなくなることを意味する。
【偽造防止技術】3Dホログラムと高精細すき入れの仕組み・本物の見分け方
新一万円札の大きな特徴が、偽造防止技術の高度化だ。国立印刷局は、従来から使われていた技術を引き継ぎながら、新たに3Dホログラムと高精細すき入れを採用している。
世界初の3Dホログラムはどういう仕組み?新一万円札には、ストライプ型の3Dホログラムが搭載されている。
最大の特徴は、紙幣を傾けたときに肖像が立体的に浮かび上がり、左右に回転しているように見えることだ。単に色や模様が変化するだけではなく、肖像が三次元的に動くように見える。
ホログラムは、光の反射や回折を利用して、見る角度によって異なる像を再現する光学技術である。通常の印刷では、同じような立体感や角度による変化を再現することが難しい。
今回採用されたストライプ型の3Dホログラムは、銀行券への搭載が世界初と国立印刷局が公表している。
この技術は一万円札だけでなく、新しい五千円札と千円札にも採用されている。
高精細すき入れとは?普通のすかしとの違いすき入れは、紙幣の製造段階で紙の厚さや繊維の状態に変化をつけ、光に透かすと模様が見えるようにする技術だ。
新一万円札では、従来の肖像のすき入れに加え、肖像の周囲に細かな線で構成された連続模様を施している。これが高精細すき入れである。
印刷によって表面に模様を描くのではなく、紙そのものに模様を形成するため、通常のカラーコピーや家庭用プリンターでは同じ特徴を再現しにくい。
加えて、すき入れバーパターンも採用されている。一万円札の場合、光に透かすと3本の縦棒が確認できる。
新一万円札に採用されたその他の偽造防止技術- 深凹版印刷:額面数字や識別マークのインキを高く盛り上げ、指で触るとざらざらした感触がある。
- 特殊発光インキ:紫外線を当てると、日本銀行総裁印や図柄の一部が発光する。
- マイクロ文字:「NIPPONGINKO」という微小な文字を印刷し、通常のコピーでは再現しにくくしている。
- 潜像模様:紙幣を傾けると、表面に「10000」、裏面に「NIPPON」の文字が見える。
- パールインキ:紙幣を傾けると、左右両端の余白部分にピンク色の光沢が現れる。
- すき入れバーパターン:光に透かすと3本の縦棒が確認できる。
実際に紙幣を受け取ったときは、次のポイントを複数確認するとよい。
1.ホログラムを傾ける
紙幣を左右に傾け、肖像が立体的に回転して見えるか確認する。新札ならではの特徴であり、重要なチェックポイントだ。
2.光に透かしてすき入れを見る
肖像のすき入れに加え、周囲の高精細な模様、3本の縦棒を確認する。単に印刷された模様とは異なり、紙そのものに形成された特徴がある。
3.指で表面の凹凸を確認する
額面数字や識別マークに触れてみる。深凹版印刷による盛り上がりがあり、平らな印刷物とは異なる感触がある。
4.角度を変えて潜像模様を見る
表面の「10000」、裏面の「NIPPON」が角度によって見えるかを確認する。
5.紫外線で発光を確認する
専用の紫外線光源がある場合は、日本銀行総裁印や図柄の一部の発光も確認できる。
重要なのは、ひとつの特徴だけで真偽を決めないことだ。偽造防止技術を複数組み合わせて確認することが基本となる。
日本銀行は、不審な紙幣を見つけた場合、最寄りの警察または日本銀行の本店・支店に届けるよう案内している。自分で使用したり、別の人に渡したりせず、専門機関に相談したい。
【ユニバーサルデザインと記番号】識別マークの位置・数字の色には意味がある?
新一万円札は、偽造防止だけでなく、視覚や触覚を使って識別しやすくする工夫も進化している。
11本の斜線で構成された識別マーク新一万円札の表面には、11本の斜線で構成された識別マークがある。
目の不自由な人などが、指で触れて紙幣の種類を判断できるようにするためのものだ。深凹版印刷によってインキを盛り上げ、ざらついた触感を作り出している。
配置は券種ごとに異なる。
- 一万円札:表面の左右中央
- 五千円札:表面の上下中央
- 千円札:表面の右上と左下
従来は券種ごとに異なる形状の識別マークが使われていたが、F券では11本の斜線に統一し、位置を変える方式になった。
額面数字が大きくなった理由新札では、表面と裏面の額面数字が従来より大きく表示されている。
漢数字だけに頼らず、年齢や国籍を問わず認識しやすいアラビア数字を大きくすることで、金額を判断しやすくした。
ホログラムやすき入れの配置変更と合わせ、紙幣を見たときにも触れたときにも券種を識別しやすくする設計になっている。
新一万円札の記番号は黒色!色が違う紙幣は偽物?新一万円札の記番号は黒色で印刷されている。
記番号とは、紙幣に印刷されたアルファベットと数字の組み合わせだ。2024年発行のF券では、IとOを除いた24文字のアルファベットと、6桁の数字を組み合わせている。日本銀行によると、この方式では約2,985億9,840万枚で一巡する。
一方、2004年発行の福沢諭吉の一万円札では、当初は黒色だった記番号が、番号の一巡に伴って2011年7月から褐色に変更された。
そのため、福沢諭吉の一万円札で記番号が褐色だからといって、偽物というわけではない。
記番号の色は、発行時期や番号の管理に伴う仕様変更と関係している。色だけで紙幣の真偽を判断するのは適切ではない。
【2026年最新】新一万円札の流通状況と旧福沢諭吉札はいつまで使える?
2026年11月現在、新一万円札は日本銀行が発行する現行の一万円券として流通している。一方、旧福沢諭吉の一万円札も引き続き有効だ。
2026年の新紙幣の流通状況は?新紙幣の普及状況を考えるうえで参考になるのが、日本銀行が2025年7月に公表した「新しい日本銀行券の流通状況について」というレビューだ。
同資料によれば、2025年6月末時点で新紙幣の発行残高は約50億枚、銀行券発行残高の約30%に達していた。
ただし、これは一万円札だけの比率ではなく、新しい一万円札・五千円札・千円札を合わせた数字である。
日本銀行は、2004年の前回改刷と比べて今回の切り替えが緩やかに進んでいる背景として、次の要因を挙げている。
- 銀行券発行残高そのものが増加していること。
- 金融機関と日本銀行の間で行われる銀行券の受け払いが減少していること。
- 前回改刷時のような偽造銀行券の急増による強い新札需要が、今回は生じていないこと。
- キャッシュレス決済の普及など、現金を取り巻く環境が変化していること。
なお、2026年11月4日時点で確認できる最新の2026年度製造計画では、一万円札の製造枚数は13億7,000万枚となっている。五千円札は1億8,000万枚、千円札は13億枚で、合計28億5,000万枚だ。
この数字は2026年度の製造計画であり、実際に市場で流通している枚数とは異なる。また、2025年6月末の約30%という普及率を、そのまま2026年現在の割合として扱うこともできない。
2026年現在の普及を判断する際には、製造計画、実際の発行枚数、金融機関を通じた流通状況を区別して見る必要がある。
旧一万円札の福沢諭吉はいつまで使える?結論からいえば、福沢諭吉の一万円札には使用期限が設定されていない。
日本銀行は、一度発行された銀行券は、法令に基づく特別な措置がない限り通用力を失わないと説明している。
つまり、2004年発行のE一万円券はもちろん、1984年発行のD一万円券も、2026年現在有効な銀行券だ。
新札が発行されたからといって、旧札を急いで銀行に持ち込んだり、交換したりする必要はない。店舗などで支払いに使うこともできる。
古い聖徳太子の一万円札も使える?さらに古い1958年発行のC一万円券、聖徳太子の一万円札も現在有効な銀行券に含まれる。
日本銀行によれば、これまでに発行された56種類の銀行券のうち、現在も25種類が有効だ。
ただし、法的に有効であることと、一般の店舗やATMで使いやすいことは別問題である。古い紙幣は現金取扱機器で対応していない場合もある。
使いにくい古い紙幣については、日本銀行の本店・支店で現行券と引き換える方法もある。
Q1:新一万円札はいつから発行されていますか?
A1:2024年7月3日から発行されています。表面には渋沢栄一、裏面には東京駅の丸の内駅舎が描かれています。
Q2:新一万円札の渋沢栄一は何をした人ですか?
A2:第一国立銀行の設立や東京株式取引所などの設立・運営に関わった実業家です。生涯に約500の企業、約600の教育機関や社会公共事業などに関与したとされています。
Q3:新一万円札の裏面は東京駅ですか?
A3:はい。東京駅の丸の内駅舎が描かれています。1914年に完成し、2003年に国の重要文化財に指定された歴史的建造物です。
Q4:3Dホログラムはどうすれば確認できますか?
A4:紙幣を左右に傾けてください。ストライプ型ホログラムの中にある肖像が立体的に見え、回転するように変化します。
Q5:新一万円札の記番号が黒色以外なら偽物ですか?
A5:色だけでは判断できません。ただし、F一万円券の基本仕様は黒色です。旧福沢諭吉のE一万円券には、2011年以降に発行された褐色の記番号もあります。
Q6:福沢諭吉の旧一万円札は2026年も使えますか?
A6:使えます。2004年発行のE券と1984年発行のD券は、どちらも現在有効な銀行券です。使用期限は設けられていません。
Q7:新一万円札と旧一万円札のサイズは違いますか?
A7:同じです。どちらも縦76mm、横160mmです。主な違いは肖像、裏面の図柄、ホログラム、すき入れ、識別マークなどです。
新一万円札は2024年7月3日に発行されたF一万円券であり、表面には渋沢栄一、裏面には東京駅の丸の内駅舎が描かれている。
最大の技術的特徴は、銀行券では世界初となるストライプ型3Dホログラムと、肖像の周囲に緻密な模様を形成した高精細すき入れだ。深凹版印刷、特殊発光インキ、マイクロ文字なども組み合わせ、偽造への対抗力を高めている。
また、11本の斜線による識別マークや大型の額面数字など、視覚・触覚の両面から使いやすさを向上させた点も見逃せない。
2026年現在も旧福沢諭吉の一万円札は有効であり、新札への交換を急ぐ必要はない。加えて、聖徳太子の一万円札も現在有効な銀行券に含まれている。
【プロの結論】
新一万円札を理解するうえで押さえておきたいのは、「新札への切り替え」と「旧札の使用停止」は別の仕組みだということだ。
紙幣の価値は肖像の新旧で変わるものではない。日常生活では、ホログラム、すき入れ、触覚による凹凸を複数確認することが、安心して現金を扱うための実践的な方法になる。
また、2026年以降も新紙幣の流通は続くが、普及率と製造枚数を混同しないことも大切だ。新一万円札は単なる肖像変更ではなく、偽造防止、識別性、近代日本の歴史を一枚に凝縮した新しい日本銀行券なのである。
主な根拠資料:
- 日本銀行「新しい日本銀行券の特徴」「新しい日本銀行券の流通状況について」
- 国立印刷局「F一万円券について」「お札の基本情報」
- 財務省「令和8年度日本銀行券製造枚数」
- 渋沢栄一記念財団「渋沢栄一略歴・活動と業績」
- 日本銀行「現在有効な銀行券」「記番号に関するFAQ」