スイスでは、本人の意思に基づく自殺ほう助が一定の条件下で認められている。しかし、日本語で一般的に使われる「安楽死」という言葉から想像されるように、医師が本人に代わって命を終わらせる行為まで自由に認められているわけではない。制度の根幹にあるのは、スイス刑法115条が定める利己的動機による自殺ほう助の処罰と、本人が最終的な行為を自ら行うという原則だ。
2026年11月現在、スイスには自殺ほう助を包括的に規制する全国統一の特別法は存在しない。一方、スイス医科学アカデミー(SAMS)の医療倫理指針、EXITやDIGNITASの運営基準、州ごとの制度が実際の運用を支えている。スイス連邦統計局(BFS)の2023年統計では1,729件、2024年には1,774件が確認され、EXITの2025年実績も1,421件に達した。法律、利用条件、外国人の利用実態、費用、そして制度をめぐる議論を整理する。
【法律の核心】スイス安楽死とは?刑法115条が認める範囲と2026年の現状

スイスの制度を理解するうえで、最初に区別したいのが「安楽死」と「自殺ほう助」だ。
日本語では、苦痛を取り除きながら本人の意思に沿って死を迎えることを広く安楽死と呼ぶ場合がある。しかし、スイスの法律や医療倫理では、死に至る行為を誰が実行するのかによって扱いが大きく異なる。
スイスで一定の条件下で認められているのは、本人が自ら最終行為を実行する自殺ほう助(Assisted Suicide)である。医師や支援者は医学的な評価や必要な支援に関与するが、本人に代わって死をもたらす行為を実行することは認められていない。
スイス刑法115条の内容制度の法的な根拠となるのが、1937年制定のスイス刑法(Swiss Criminal Code)第115条だ。
同条は、利己的な動機から他人を自殺に誘導したり、自殺を援助したりした者について、相手が実際に自殺を遂げるか、未遂に終わった場合、5年以下の自由刑または罰金刑を科すと定めている。
重要なのは、同条が自殺ほう助そのものを全面的に禁止しているのではなく、利己的な動機による援助を処罰対象としている点だ。
つまり、利己的な動機がないことだけで、あらゆる支援が無条件に許されるわけではない。本人の判断能力、最終行為の主体、医薬品に関する規制、医師の職業上の責任など、複数の条件を満たす必要がある。
刑法114条との違いにも注意もう一つ重要なのが刑法114条だ。同条は、本人から真摯で執拗な依頼を受け、同情などの称賛に値する動機であっても、第三者が本人を直接殺害した場合を処罰対象としている。
そのため、本人が自ら最終行為を行う自殺ほう助と、医師などが直接命を奪う積極的安楽死は、法的に同じものではない。
スイス連邦司法省の説明でも、直接的な積極的安楽死は刑法111条、114条、113条などの対象となり、禁止されている。一方、本人が自ら最終行為を行う自殺ほう助は、115条の条件に従って扱われる。
なお、延命措置の差し控えや中止に当たる消極的安楽死、苦痛緩和を目的とした治療の副作用として寿命が短くなる可能性を伴う間接的積極的安楽死は、一定の条件下で許容されている。
2026年現在、スイスに自殺ほう助の包括的な特別法はない2026年11月時点でも、自殺ほう助を全国一律に詳細規制する特別法は成立していない。基本的な法的枠組みは刑法、麻薬法、医師の職業上の義務、州の規則などによって構成されている。
2025年9月11日には、スイス上院に相当する全州議会が自殺ほう助の枠組み規制を求める動議を22対16、棄権8で否決した。規制強化によって自己決定権を損なうべきではないという立場と、弱い立場にある人を守るため監督制度が必要だという立場が対立したためだ。
さらに2026年には、終末期の法制度を再検討する議会手続きも進められている。身体的な理由で本人が最終行為を実行できない場合や、事前に意思を示した後で判断能力を失った場合など、現行制度では整理が難しい問題が取り上げられている。
したがって、2026年の現状を「スイスでは安楽死が自由化されている」と説明するのは正確ではない。刑法115条を基礎とする限定的な制度が維持される一方、法的な空白や医療倫理上の課題について議論が続いている。
【利用条件を検証】SAMS指針が示す4つの基準と医師の役割
法律上の条件と医療倫理上の条件は異なるスイスで自殺ほう助が刑法上処罰されない条件と、医師が医療倫理上それを認められる条件は、必ずしも同じではない。
その違いを具体化しているのが、スイス医科学アカデミー(SAMS)が定める「死と死にゆくことへの対応(Management of dying and death)」という医療倫理指針だ。
この指針は2018年に公表され、議論を経て2021年に自殺ほう助に関する部分が改訂された。医療従事者が終末期の患者と向き合う際の判断基準として位置付けられている。
SAMSが示す4つの主要要件SAMSの指針では、医療倫理上、自殺ほう助が正当化され得る条件として、次の4項目を掲げている。
1.判断能力があること
本人が自分の状況や選択の意味、結果を理解し、意思決定できる能力を備えている必要がある。認知機能だけでなく、感情面や意思形成の状態も慎重に評価される。
2.自発的で十分に熟慮された意思であること
本人の意思が外部からの圧力によるものではなく、十分に考えられた持続的な意思であることが求められる。家族や介護者、経済的事情などによって本人が追い込まれていないかも重要な確認事項となる。
3.医学的に説明できる深刻な苦痛があること
重い病気の症状や機能障害によって、本人が耐え難い苦痛を感じている必要がある。その苦痛が医学的な診断や経過に照らして理解できることも求められる。
4.ほかの選択肢を検討していること
緩和ケア、治療、心理的支援など、苦痛を軽減するための代替手段について検討されていることが重要だ。それらが適切ではないと判断された場合、または本人が十分な説明を受けたうえで拒否した場合などが考慮される。
医師による確認と独立した第三者の評価SAMS指針では、特別な例外を除き、少なくとも2回の詳細な面談を行い、その間隔を2週間以上空けることを求めている。
加えて、判断能力と自発的な意思については、医師以外でもよい独立した第三者による確認が必要とされる。
医師の役割は、単に本人の希望を聞いて処方を決めることではない。苦痛の背景を理解し、治療や緩和ケアなどの選択肢を検討し、本人が外部から圧力を受けていないかを確認する責任がある。
また、医師に自殺ほう助を実施する義務はない。患者から要望があっても、個々の医師は自身の医療倫理や専門的判断に基づいて関与を断ることができる。
健康な人や精神疾患のある人は対象になるのかここには法律と医療倫理の間に重要な違いがある。
刑法115条そのものには、末期がんなどの特定の病気を必須条件とする規定はない。そのため、法律の文言だけを見れば、健康な人や判断能力のある未成年者についても一律に対象外とはされていない。
しかし、SAMSの2021年改訂指針では、医学的に定義できる重い疾患や機能障害に由来する耐え難い苦痛がない健康な人への自殺ほう助は、医療倫理上正当化できないと明確化されている。
精神疾患がある場合も、診断名だけで一律に判断されるわけではない。ただし、死を望む気持ちが精神疾患の治療可能な症状として現れている場合には、慎重な専門的評価が必要となる。
つまり、スイスの制度は「法律に明記されていないから利用できる」という単純な仕組みではない。医師の専門的責任と倫理的な判断が大きな意味を持っている。
【制度と数字を一覧化】BFS統計・EXIT・DIGNITASの関係と2025年実績
スイスの自殺ほう助をめぐる情報では、国の統計と各団体の活動実績を混同しないことが大切だ。それぞれ集計対象や地域、会員の範囲が異なる。
法律・医療機関・支援団体の関係一覧| 主体・制度 | 役割・関係 | 2026年時点の主な事実 |
|---|---|---|
| スイス刑法115条 | 自殺ほう助の刑事責任を規定 | 利己的動機による援助を処罰 |
| スイス刑法114条 | 本人の依頼に基づく直接的な殺害を規制 | 積極的安楽死は原則禁止 |
| SAMS | 医療従事者向けの医療倫理指針を策定 | 2018年制定、2021年改訂。4つの主要要件を提示 |
| BFS・Obsan | スイス居住者の死亡原因を統計化 | 2023年1,729件、2024年1,774件 |
| EXIT | 主にドイツ語圏・イタリア語圏で活動する非営利団体 | 2025年の支援実績1,421件 |
| DIGNITAS | 国内外の会員を対象とする自殺ほう助団体 | 2025年の支援実績263件 |
| スイスの州政府 | 医療施設などに関する州単位の規則を整備 | 一部の州で病院や介護施設に関する独自規制が存在 |
スイス連邦統計局(BFS)が公表した2023年の死因統計では、自殺ほう助による死亡者は合計1,729人だった。
内訳は男性693人、女性1,036人。女性が全体の約60%を占めている。
年齢については、男性の平均が78歳、女性が80歳だった。また、利用者の約91%が64歳を超えていた。
主な背景疾患としては、がんが33%、神経変性疾患が11%を占める。こうした数字から、スイスの自殺ほう助が、主に高齢者や重い疾患を抱える人の終末期に関係していることが分かる。
2024年の最新公的データは1,774件2026年時点で確認できるスイス健康観測機関(Obsan)の統計指標では、BFSの死因統計に基づく2024年の自殺ほう助件数は1,774件となっている。
2023年の1,729件から45件増加した計算だ。年単位で見ると増加傾向が続いており、終末期の自己決定をめぐる社会的な関心の高まりを示す数字でもある。
ただし、BFSの死因統計はスイス国内に居住する人を対象としている。外国に居住し、スイスを訪れて自殺ほう助を受けた人は、この統計には含まれない。この点は、スイス全体で実施された件数を考える際に見落とせない。
EXITの2025年実績は1,421件スイス最大級の自殺ほう助団体EXITは、2026年3月2日に2025年の活動実績を公表した。
その内容によると、ドイツ語圏とイタリア語圏で活動するEXITの2025年の支援実績は1,421件。2024年の1,235件から186件増加した。
同年末の会員数は195,836人で、前年比約8%増。年間の問い合わせは3,500件を超え、詳細な確認を行った相談記録は1,783件だった。
利用者の平均年齢は80歳。女性818人、男性603人で、女性が多い傾向はBFSの2023年統計とも共通している。
背景疾患では、重いがんが461件で全体の32%を占めた。複数の疾患を抱える高齢者も326件、全体の23%に達している。
また、実施場所については、約75%が自宅などの私的空間、約20%が高齢者施設だった。EXITは、医療施設や介護施設での本人の自己決定権を確保するための活動にも取り組んでいる。
DIGNITASの2025年実績も重要外国人の利用を考える際に名前が挙がる団体がDIGNITASだ。
同団体が2026年3月に発表した2025年の活動報告では、会員数は15,968人、支援実績は263件だった。
報道された内訳では、フランス出身者が48人、英国出身者が43人、イスラエル出身者が29人、スイス出身者が28人となっている。
EXITの1,421件とDIGNITASの263件は、それぞれの団体が公表した個別実績であり、全国の総件数とは異なる。特にEXITの数字はドイツ語圏とイタリア語圏の活動実績であるため、単純に足し合わせてスイス全体の件数とすることはできない。
【外国人も対象?】EXITの利用条件とスイス安楽死の費用
スイス国民以外でも利用できるのかスイスの自殺ほう助制度が国際的に知られる理由の一つが、外国人を受け入れる団体が存在することだ。
ただし、どの団体でも外国人を受け入れているわけではない。
EXITのドイツ語圏の団体では、原則として18歳以上で判断能力があるスイス国民、またはスイスに居住していることを証明できる人を会員としている。
したがって、スイスに住んでいない外国人が、EXITの一般的な会員制度を利用できるわけではない。
一方、DIGNITASは国外居住者も会員としている団体として知られている。2025年の実績に外国出身者が多数含まれていることからも、国際的な活動を行っていることが分かる。
ただし、外国籍であることだけで利用が認められるわけではない。医学的な評価、判断能力、本人の意思、団体の規約など、個別の条件が適用される。
スイス安楽死の費用はどれくらいか費用は団体や提供されるサービスによって異なる。スイス国内に統一された公定料金があるわけではない。
DIGNITASが公式に公表している費用情報では、準備や医療面談、支援に関する費用に加え、葬送や行政手続きなどの費用が設定されている。
同団体の公表料金では、関連するサービス全体の費用は、葬送や行政手続きを含む場合で約11,000スイスフラン、それらの手続きを団体が行わない場合で約7,500スイスフランとされている。いずれも付加価値税は含まれておらず、料金変更の可能性もある。
また、会員費や渡航・滞在などの関連費用も考慮する必要がある。経済的に余裕がない会員に対する減額や免除の制度も設けられている。
EXITの場合、2025年末時点で公表されている会員費は年間45スイスフラン、終身会員は1,100スイスフランだ。ただし、これは会員制度の料金であり、個別の支援に関する費用と同一ではない。
こうした料金を比較するときは、会員費だけでなく、医療面談、行政手続き、葬送など、何が含まれているかを区別する必要がある。
【実態と評判を検証】スイス安楽死をめぐる賛否と2026年の規制論争
自己決定権を尊重する立場自殺ほう助を支持する立場の中心にあるのは、人生の最終段階における自己決定権だ。
回復が難しい病気や重い機能障害によって耐え難い苦痛を抱える人にとって、治療を続けるか、緩和ケアを受けるか、どのような最期を望むかを自分で考えられることは重要な意味を持つ。
EXITやDIGNITASなどの団体も、本人の尊厳と自己決定を活動の基本理念として掲げている。
また、スイスの制度は単に死亡を支援する仕組みではない。EXITの活動には、患者の事前指示書に関する支援、病気や老後の相談、緩和ケアに関する情報提供なども含まれる。
弱い立場の人が死を選ぶよう圧力を受けないか一方、制度への批判で特に重要なのが、社会的に弱い立場にある人への影響だ。
高齢者や障害のある人、経済的に困窮している人が、周囲に負担をかけたくないという気持ちから、自分の意思とは異なる形で死を選ぶよう圧力を感じる可能性が指摘されている。
SAMSも、自殺ほう助が社会の中で一般化することによって、自分を家族や社会の負担だと感じる人が早期に死を選ぶよう追い込まれる危険性を指摘している。
この問題は、本人が自発的に意思表示しているかという確認だけでは解決しない。十分な介護サービス、経済的支援、緩和ケア、心理的支援などが実際に利用できる状態にあるかどうかも問われる。
形式上は本人の自由な選択であっても、ほかに生きるための選択肢がない状況であれば、その自己決定は本当に自由なのかという問題が残る。
2025年の規制強化案と2026年の議論2025年には、スイス国内で自殺ほう助の監督や統計のあり方を見直す動きが強まった。
9月11日、全州議会は自殺ほう助に関する包括的な枠組み規制を求める動議を否決した。一方で、自殺ほう助の実態を統計的に把握するためのモニタリング案については賛成した。
しかし、2025年12月1日の国民議会では、統計モニタリングを求める動議も127対59、棄権5で否決された。したがって、2026年現在、外国人を含むすべての利用者や実施状況を一元的に把握する新たな全国登録制度が導入されたわけではない。
2026年には、終末期の法制度を整理し、今後の課題を検討する議会手続きも取り上げられた。特に問題視されているのは、身体的に最終行為を実行できない人や、事前に意思を表明した後で判断能力を失った人の扱いだ。
また、医師が健康な人に対して自殺ほう助に関係する処方を行った事例をめぐる連邦裁判所の判断も、医師の責任と医療倫理指針の位置付けを考える契機となっている。
裁判所の判断によって、健康な人への処方が無条件に認められたわけではない。医師には引き続き専門的な責任があり、職業上の義務に反すれば民事上・行政上の責任を問われる可能性がある。
スイス安楽死の実態を評価するための判断基準スイスの制度を評価するときは、賛成か反対かだけで判断するのではなく、次の5つの視点を分けて考える必要がある。
第一に、本人の意思が本当に自発的か。 家族関係や経済的事情、介護負担などによる圧力がないかを確認する必要がある。
第二に、医療倫理上の基準が機能しているか。 判断能力や苦痛の評価、代替治療の検討が形式的な手続きに終わっていないかが問われる。
第三に、支援団体の透明性が確保されているか。 会員数や支援件数だけでなく、審査の実態や運営費用についても説明責任が求められる。
第四に、統計の対象範囲が明確か。 国内居住者の公的統計と、外国人を含む各団体の活動実績を混同してはならない。
第五に、生き続けるための支援が十分にあるか。 緩和ケアや介護、精神的支援を選べる環境が整っていなければ、自己決定権の保障は不完全なものになり得る。
スイスの制度の評価は、本人の選択を尊重することと、本人が死を選ばざるを得ない状況を社会が生み出さないことの両立にかかっている。
【プロの結論】スイス安楽死制度から読み解く自己決定権と法的課題
スイスの自殺ほう助制度の本質は、安楽死を無条件に合法化したことではない。刑法115条によって利己的動機による援助を処罰しながら、本人の判断能力と自己決定を尊重する余地を残している点にある。
その一方、刑法だけでは医療現場の判断をすべて規定できないため、SAMSの医療倫理指針や団体ごとの規約、州の制度が実務上の重要な役割を担っている。
2023年のBFS統計では1,729件、2024年には1,774件。EXITの2025年実績は1,421件だった。数字が増えている背景には、高齢化や重い病気を抱える人の増加だけでなく、人生の最終段階における自己決定への考え方の変化もある。
ただし、これらの数字だけで制度が成功しているかどうかは判断できない。本人がどのような状況で意思を形成したのか、緩和ケアや介護を十分に受けられたのか、第三者による確認が適切に機能していたのかという質的な検証も必要だ。
2026年のスイスが直面しているのは、自己決定権を守るためにどこまで制度を整備すべきかという問題である。規制を強めすぎれば本人の自由を損なう可能性があり、反対に監督が不十分なら弱い立場の人を守れない可能性がある。
スイスの自殺ほう助制度を理解するうえで最も重要なのは、死を選ぶ自由だけでなく、生き続けるための選択肢も同時に保障されているかという視点だ。 今後の制度改革でも、この両立が最大の論点になる。
【スイス安楽死】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:スイスでは健康な人でも安楽死が認められる?
A1:刑法115条には特定の病気を必須とする規定がないため、法律上の一律禁止ではない。ただし、SAMSの医療倫理指針では、医学的に定義できる重い疾患や機能障害による耐え難い苦痛がない健康な人への自殺ほう助は倫理的に正当化できないとされる。医師の処方も無条件に認められるわけではない。
Q2:日本人などの外国人もスイスの自殺ほう助を利用できる?
A2:外国人を受け入れる団体は存在する。EXITのドイツ語圏団体は原則としてスイス国民またはスイス居住者を対象としている一方、DIGNITASは国外居住者も会員としている。ただし、外国籍であることだけで利用が認められるわけではなく、個別の医学的・倫理的な審査がある。
Q3:2026年にスイスの安楽死に関する法律は改正された?
A3:2026年11月時点で、自殺ほう助を包括的に規制する新しい連邦法は成立していない。刑法115条を中心とする法的枠組みが維持されている。ただし、2025年の規制案否決や2026年の終末期法制度をめぐる議論など、今後の見直しに関する動きは続いている。
スイス安楽死の実態を正確に理解するには、安楽死と自殺ほう助を区別し、刑法115条とSAMS指針の役割を把握することが欠かせない。
2026年現在も、本人が最終行為を行う自殺ほう助は一定の条件下で認められているが、第三者が直接命を奪う積極的安楽死は認められていない。医療倫理上の審査、判断能力の確認、本人の自発的意思、苦痛の評価など、実際の運用には厳格な基準が存在する。
統計面では、BFSの2023年実績1,729件、2024年実績1,774件、EXITの2025年実績1,421件が制度の規模を把握する重要な資料となる。ただし、それぞれの集計範囲は異なるため、単純比較には注意が必要だ。
これからのスイスに求められるのは、自己決定権を尊重しながら、孤立や貧困、介護負担などによって本人が不本意な選択を迫られない環境を整えることだ。制度の評価は、利用件数だけではなく、本人の尊厳と生きる権利がどこまで守られているかによって決まる。
主な根拠資料・一次情報
- スイス連邦司法省:安楽死・自殺ほう助の法的区分
- スイス医科学アカデミー:医療倫理指針と4つの要件
- BFS:2023年死因統計
- Obsan:2024年までの自殺ほう助統計
- EXIT:2025年活動実績
- DIGNITAS:2025年活動報告・費用情報
- スイス連邦議会:2025~2026年の規制・法制度論議