スキルス胃がんを経験し、治療後に長期間再発せず生活している人はいる。医学的にも、進行胃がんに対する化学療法と手術を組み合わせた治療で、5年以上生存した患者のデータが報告されている。
ただし、「完治した人がいる」という事実と、「自分も同じ経過をたどれる」という予測は別問題だ。
医学的な「完治」とは何を意味するのかがん治療における完治は、日常会話で使われる意味と医学的な意味を区別する必要がある。
国立がん研究センター中央病院の胃外科では、治療によってがんが消失し、その後5年間再発がない場合を治癒とみなす考え方を紹介している。
このため、一般的には次のように整理できる。
- 完全奏効(CR): 検査で確認できるがんが消失した状態。
- 無再発: 治療後、一定期間にわたって再発が確認されていない状態。
- 5年無再発: 治療後5年間再発が認められていない状態。臨床上の治癒を判断する目安になる。
- 長期生存: がんの診断から長期間にわたり生存している状態。再発の有無や治療継続の状況は人によって異なる。
重要なのは、画像検査で腫瘍が見えなくなったからといって、体内のがん細胞が完全にゼロになったと証明できるわけではないことだ。
また、5年経過後に再発や別のがんが見つかる可能性もある。5年無再発は大きな節目だが、将来のリスクが完全になくなるという意味ではない。
長期生存を示す医学的な報告長期生存の可能性を考えるうえで参考になるのが、切除不能進行胃がんに対するコンバージョン手術の研究だ。
2022年に日本消化器外科学会雑誌に掲載された研究では、2006年10月から2019年7月までに、切除不能進行胃がんに対してコンバージョン手術を受けた47人が分析された。
コンバージョン手術とは、最初は手術でがんを取りきることが難しいと判断された患者に化学療法を行い、病状が改善した場合に根治切除を目指して手術する方法である。
この研究では、次の成績が報告されている。
コンバージョン手術を受けた47人の研究結果34.6%

全対象者の5年全生存率42.5%
R0切除できた36人の5年全生存率48か月
全対象者の生存期間中央値38.4%
R0切除群の5年無再発生存率
出典:日本消化器外科学会雑誌、2022年掲載研究。単施設の選択された47症例であり、一般のステージ4胃がん患者やスキルス胃がん患者全体の生存率ではない。
特に注目したいのは、R0切除という結果だ。これは、手術によって顕微鏡的にもがんの取り残しがないと判断された状態を意味する。
同研究では、R0切除ができた患者の5年全生存率は42.5%だった。
ただし、この研究はスキルス胃がんだけを対象にしたものではない。腹膜播種を含むさまざまな転移形式の進行胃がんを対象としており、この数値をそのままスキルス胃がんの治癒率として扱うことはできない。
それでも、進行胃がんと診断された患者の一部に、化学療法後の手術を経て5年以上生存する経過が存在することを示す重要な報告だ。
【5年生存率】スキルス胃がんの予後と再発率はどう読むべきか
スキルス胃がんについて調べると、非常に厳しい生存率の数字を目にすることがある。
しかし、その数字がどの患者集団を対象にしたものなのかを確認しなければ、正しい理解にはつながらない。
2026年に確認できる胃がん全体の5年生存率厚生労働省は2026年2月13日、2018年にがんと診断された人の全国がん登録5年生存率を公表した。
15歳以上の胃がん患者全体では、5年生存率は64.4%だった。
これは胃がん全体の数値であり、スキルス胃がんだけの数値ではない。早期胃がん、進行胃がん、さまざまな組織型や病期の患者が含まれる。
また、2018年診断例のデータであるため、2026年に受ける最新治療の成績をそのまま反映したものでもない。
スキルス胃がんだけの5年生存率は公表されている?ここが検索時に注意したいポイントだ。
国立がん研究センターの全国がん登録や院内がん登録では、胃がんの生存率を病期や性別などで確認できる。しかし、一般に公表されている主要な全国統計から、スキルス胃がんだけを取り出した一律の5年生存率を算出することはできない。
スキルス胃がんは、胃壁を硬く厚くしながら広がる特徴を持つ胃がんの一形態である。組織型や進行度、治療内容によって患者の状態が大きく異なる。
したがって、インターネット上で見かける「スキルス胃がんの5年生存率は一律に何%」という数字には、対象患者や調査時期の確認が欠かせない。
5年生存率と再発率は同じではない5年生存率は、診断後5年の時点で生存している人の割合を表す。
一方、再発率は、治療によってがんが消失した後に再びがんが確認された患者の割合を指す。
この2つは別の指標だ。
例えば、5年以上生存していても再発後の治療を続けている人はいる。また、治療後に再発がなくても、ほかの病気によって5年以内に亡くなる人もいる。
胃がんの再発には、次のようなものがある。
- 局所再発:胃の周辺や手術部位付近に再びがんが現れる。
- リンパ節再発:リンパ節にがんが見つかる。
- 血行性転移:肝臓や肺などに転移する。
- 腹膜播種:腹腔内にがん細胞が広がる。
特にスキルス胃がんでは、腹膜播種が予後を左右する重要な要素になる。
再発率を考える場合も、診断時のステージ、リンパ節転移、腹膜播種の有無、手術による切除状況などを合わせて確認する必要がある。
【予後を左右する】ステージ4と腹膜播種では何が違うのか
スキルス胃がんの予後を考えるとき、単に「スキルス」という病名だけで判断することはできない。
診断時のステージと、がんがどこまで広がっているかが重要になる。
スキルス胃がんが早期発見しにくい理由スキルス胃がんは、一般的な胃がんのように胃の内側に明瞭な隆起や潰瘍をつくるとは限らない。
胃壁の内部にがん細胞が浸潤し、壁全体が厚く硬くなっていくことが特徴だ。
国立がん研究センターのがん情報サービスでも、スキルス胃がんは粘膜に目立った変化が現れにくく、早期段階での発見が難しい場合があると説明している。
この特徴が、診断時に進行している患者が少なくない背景の一つになっている。
なお、未分化型胃がんとスキルス胃がんは同義ではない。スキルス胃がんには未分化型が多いものの、未分化型の胃がんがすべてスキルス胃がんというわけではない。
ステージ4と腹膜播種の関係胃がんのステージは、原発巣の深さ、リンパ節転移、遠隔転移などを組み合わせて決まる。
腹膜播種とは、胃の外側にまで広がったがん細胞が腹腔内に散らばり、腹膜などに定着して増殖する状態だ。
腹膜播種が確認された場合、原則としてステージ4に分類される。
腹膜播種では、次のような問題が起こることがある。
- 腹水がたまる。
- 腸の動きが悪くなる。
- 腸閉塞が起こる。
- 腹部の張りや痛みが強くなる。
- 食事が十分に取れなくなる。
ただし、腹膜播種という診断だけで、その後の経過が全員同じになるわけではない。
播種の広がり、腹水の有無、全身状態、化学療法への反応などが治療方針に影響する。
ステージ4でも長期生存を目指せるケースはある?ステージ4では、通常の根治手術が難しいケースが多く、薬物療法を中心に治療する。
ただし、化学療法によってがんが大きく縮小し、当初は手術できなかった病変が切除可能になる場合がある。
この場合に検討されるのが、前述したコンバージョン手術だ。
重要なのは、単に腫瘍が小さくなったという理由だけで手術をするわけではないこと。
- 化学療法による効果が一定期間維持されている。
- 遠隔転移や腹膜播種の状況が改善している。
- すべてのがんを取りきれる可能性がある。
- 患者の全身状態が手術に耐えられる。
こうした条件を総合的に判断する。
ステージ4の患者に対する胃切除を、延命だけを目的として一律に行うことは推奨されない。根治切除が現実的に見込める一部の患者で、専門チームが慎重に判断する治療戦略である。
【治療法を比較】胃全摘手術と化学療法、どちらが完治につながる?
スキルス胃がんの治療では、手術だけ、抗がん剤だけという単純な選択ではなく、病期やがんの性質に合わせた治療が行われる。
胃全摘手術が適応になる条件胃全摘手術は、胃の大部分または全体を切除する手術だ。
スキルス胃がんでは、胃壁の広い範囲にがんが浸潤していることがあり、部分切除では十分な切除範囲を確保できない場合がある。
その場合、胃全摘術が選択肢になる。
ただし、スキルス胃がんと診断された全員が胃全摘を受けるわけではない。
手術適応を判断する際には、次の条件が検討される。
1. 遠隔転移がないこと。
2. がんを完全に切除できる見込みがあること。
3. 手術に耐えられる全身状態であること。
4. 手術による利益が身体的負担を上回ると考えられること。
胃の切除範囲は、がんの位置と広がりによって決まる。胃全摘術のほか、幽門側胃切除術などもある。
ステージ別の治療と検査の関係| 病状・検査結果 | 主な治療方針 | 治療の目的 |
|---|---|---|
| 遠隔転移のない切除可能な胃がん | 胃切除・リンパ節郭清。病期に応じて術後補助化学療法 | 根治切除 |
| ステージ4・腹膜播種あり | 全身化学療法を中心に治療 | 病勢の抑制・症状の緩和・生存期間の延長 |
| 化学療法で大きく改善した一部のステージ4 | 条件を満たせばコンバージョン手術を検討 | 根治切除の可能性を追求 |
| HER2陽性 | HER2標的薬と化学療法を組み合わせる治療など | 腫瘍の増殖を抑える |
| CLDN18.2陽性・HER2陰性 | ゾルベツキシマブや免疫療法を含む治療を検討 | バイオマーカーに応じた薬物療法 |
| PD-L1・MSI検査の結果に応じた症例 | 免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を検討 | 免疫機能を利用した抗腫瘍効果 |
この表で重要なのは、ステージ4であっても、治療方針が一つに固定されているわけではないことだ。
また、手術の適応と薬物療法の選択は、互いに独立しているわけではない。治療による反応を見ながら、治療目標を再評価することもある。
【2026年最新】進行胃がんの標準治療とバイオマーカー検査
2026年の胃がん治療では、患者ごとのがんの性質を調べて薬剤を選ぶ個別化医療が重要になっている。
日本胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン第7版」は2025年3月改訂版であり、患者向けの「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2026年版」も刊行されている。
後者は2026年2月刊行の3年ぶりの改訂版だ。胃の機能を温存する手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援手術、バイオマーカーに基づく薬物療法などの新しい情報が盛り込まれている。
4種類のバイオマーカー検査が重要切除不能進行・再発胃がんでは、一次化学療法を始める前に、複数のバイオマーカーを確認することが推奨されている。
HER2検査
がん細胞にHER2タンパク質が過剰に発現しているかを調べる。陽性の場合、HER2を標的にした治療薬が選択肢になる。
PD-L1検査
がん細胞などに発現するPD-L1を調べ、免疫チェックポイント阻害薬を使うかどうかの判断材料にする。
CLDN18.2検査
CLDN18.2というタンパク質の発現を調べる。陽性の場合、ゾルベツキシマブを用いた治療が選択肢になる。
MSI検査
DNAの修復機能に異常がないかを調べる。MSI-Highの場合、免疫療法の効果が期待できる患者がいる。
国立がん研究センターのがん情報サービスによると、胃がん患者のうちHER2陽性は約15~20%、MSI-Highは約5%とされている。
検査結果によって、一次化学療法の薬剤構成が変わる。
例えば、HER2陽性の場合は、HER2標的薬と細胞障害性抗がん薬を組み合わせ、PD-L1の結果によって免疫チェックポイント阻害薬の併用も検討する。
HER2陰性でCLDN18.2陽性の場合には、ゾルベツキシマブと化学療法の組み合わせなどが選択肢になる。
一方、免疫療法の適応はPD-L1やMSIの結果、患者の全身状態なども含めて判断される。
2026年7月にはバイオマーカー検査の手引きも改訂日本胃癌学会は2026年7月、「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き第3版」を公開した。
同学会の公式ガイドラインページには、2026年3月のHER2陽性進行・再発胃がんの二次治療、6月の周術期治療、7月のHER2陰性進行・再発胃がんの一次治療に関する最新の委員会コメントも掲載されている。
こうした更新から分かるのは、胃がん治療が従来の抗がん剤中心の考え方から、分子標的薬や免疫療法を組み合わせる時代へと進んでいることだ。
ただし、新しい臨床試験の結果や学会コメントが、そのまま全患者に適用される標準治療を意味するわけではない。承認状況、保険適用、ガイドライン上の位置づけを確認する必要がある。
【体験談の真相】スキルス胃がん完治体験談を読むときの判断基準
「スキルス胃がんが完治した」という体験談は、同じ病気を抱える患者や家族にとって希望につながる。
一方、体験談には医学的な情報だけでは判断できない部分もある。
体験談で確認したい7つのポイント例えば、ある人が「ステージ4のスキルス胃がんから回復した」と発信していた場合、次の情報が分かるかどうかが重要だ。
- 診断時の正確な病理組織型
- 診断時のステージ
- 腹膜播種や腹水の有無
- 受けた化学療法や手術の内容
- 手術を受けた場合の切除結果
- 診断後、何年間再発していないのか
- 現在も治療や経過観察を続けているのか
特に、完全奏効と完治は区別しなければならない。
抗がん剤で腫瘍が画像上消失しても、微小ながん細胞が残っている可能性はある。また、治療を続けながら長期生存しているケースもある。
したがって、体験談を読むときは「治った」という言葉だけではなく、治療後の期間と現在の状態を確認することが大切だ。
長期生存につながる可能性を考えるうえでのポイント医学的に注目されるのは、次のような要素である。
1.がんの広がり
同じスキルス胃がんでも、腹膜播種の有無や遠隔転移の範囲によって治療方針が異なる。
2.薬物療法への反応
腫瘍が縮小するか、腹膜播種が改善するか、効果がどの程度持続するかが重要になる。
3.根治切除の可能性
化学療法後にがんを完全に切除できる状態まで改善した場合、コンバージョン手術が検討されることがある。
4.患者の全身状態
栄養状態、臓器機能、体力なども治療を継続できるかどうかに関係する。
5.適切な治療選択
バイオマーカー検査や専門医による診断によって、使用できる治療の選択肢が変わる。
セカンドオピニオンを検討する価値があるケース次のような状況では、胃がんを専門とする医師に別の意見を求めることも選択肢になる。
- 手術ができない理由を十分に理解できていない。
- 腹膜播種の範囲や診断方法について疑問がある。
- HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIの検査状況が分からない。
- 化学療法の効果が出ているのに手術の可能性が検討されていない。
- 新しい治療や臨床試験について知りたい。
これは、現在の担当医の治療方針が間違っているという意味ではない。病状や治療目標について理解を深め、納得できる選択をするための方法だ。
国立がん研究センターのがん相談支援センターでは、治療や生活、医療機関に関する相談も受け付けている。
【プロの結論】完治の可能性を考えるときに見るべきものスキルス胃がんの予後を判断する際、最も重要なのは病名だけで判断しないことだ。
「スキルスだから治らない」「ステージ4だから必ず短期間で進行する」といった単純な理解では、実際の治療の選択肢を正確に捉えられない。
一方で、長期生存した人の体験談だけを見て、すべての患者に同じ結果を期待することも適切ではない。
診断時の病期、腹膜播種の有無、バイオマーカー、治療への反応、R0切除の可能性。この5つを整理することが、現在の医学に基づいて予後を考えるための現実的な判断基準になる。
【スキルス胃がんの完治・長期生存】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:スキルス胃がんが完治した人は本当にいますか?
います。治療後5年以上再発せず生活している人や、進行胃がんに対する化学療法とコンバージョン手術を経て長期生存した患者の研究報告があります。ただし、スキルス胃がんだけに限定した全国的な完治率は確立されていません。
Q2:スキルス胃がんのステージ4でも5年以上生きられますか?
可能性はあります。進行胃がんに対する化学療法で効果が得られ、条件が整った患者では手術が検討される場合もあります。ただし、腹膜播種の範囲や全身状態などによって経過は大きく異なります。
Q3:スキルス胃がんは5年無再発なら完治ですか?
5年間再発がなければ、臨床上の治癒を判断する大きな目安になります。ただし、5年を超えてから再発や別のがんが見つかる可能性もあるため、担当医の指示に従った経過観察が大切です。
スキルス胃がんが完治した人はいるのかという疑問に対する答えは、長期生存例は実際に存在する、ということだ。医学研究でも、進行胃がんに対する化学療法と根治切除を組み合わせ、5年以上生存した患者が報告されている。
一方、胃がん全体の5年生存率64.4%をスキルス胃がんやステージ4の患者に当てはめることはできない。腹膜播種がある場合とない場合、手術が可能な場合と切除不能の場合では、治療の目的も見通しも異なる。
2026年は、日本胃癌学会の第7版ガイドラインや患者向け2026年版ガイドライン、バイオマーカー検査の手引き第3版など、治療を選ぶための情報が更新されている。HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIの検査結果を踏まえた治療選択も欠かせない。
大切なのは、厳しい統計だけで将来を決めつけず、反対に一つの体験談だけで希望的な予測を立てないこと。自分の病理診断、病期、転移の状況、治療への反応を主治医と確認し、必要に応じて専門施設の意見も聞きながら、治療の可能性を一つずつ検討していくことが重要だ。
主な参考資料
- 国立がん研究センター「がん情報サービス・胃がん」
- 厚生労働省「2018年全国がん登録5年生存率報告」
- 日本胃癌学会「胃癌治療ガイドライン第7版」
- 日本胃癌学会「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2026年版」
- 日本消化器外科学会雑誌「切除不能進行胃癌に対するconversion手術症例の予後因子の同定」