- 多産そのものはDVではない: 子どもの人数ではなく、妊娠・出産に関する本人の意思が尊重されているかが判断の核心。 - 妊娠をめぐる支配もDVの一形態: 性行為の強要、避妊への非協力、中絶の強要などは、内閣府が示す性的暴力の具体例に含まれる。 - 子どもにも影響が及ぶ: 面前DVは心理的虐待に該当し、子どもの安心感や自己評価、対人関係に影響する可能性がある。 - 相談先がある: DV相談ナビ「#8008」、DV相談プラス「0120-279-889」は、妊娠・出産をめぐる悩みも相談するきっかけになる。
【まず結論】多産とDVに関係はある?子どもの人数だけでは判断できない

「多産DV」は、子どもを何人も産ませることによってパートナーを支配する状況を説明する際に使われる表現だ。ただし、配偶者暴力防止法に「多産DV」という独立した法的類型が設けられているわけではない。
重要なのは、出産回数ではなく、妊娠や避妊について本人が自由に意思決定できているかどうかだ。
例えば、次のような状況には注意が必要になる。
- 妊娠を望んでいないのに、性行為を繰り返し強要される。
- 避妊を求めても、パートナーが応じない。
- コンドームの使用を拒否される。
- 避妊具やピルの使用を妨害される。
- 妊娠しないことを理由に暴言や脅迫を受ける。
- 中絶や妊娠継続について、本人の意思に反する決断を迫られる。
- 出産後、次の妊娠を当然のように要求される。
これらに共通しているのは、妊娠・出産という身体に関わる重大な選択を、本人ではなくパートナーが支配している点である。
一方、夫婦双方が望んで子どもを複数人育てている家庭や、本人が納得して出産を選択している家庭までDVとみなすことはできない。
多産とDVの関係を考えるときは、結果として子どもが何人いるかよりも、そこに至る意思決定の過程を確認する必要がある。
「多産DV」と「子だくさん家庭」は何が違う?大きな違いは、本人の意思と選択の自由が守られているかどうかだ。
例えば、夫婦が話し合って4人の子どもを望み、互いに納得して出産を重ねた場合、それだけでDVとはいえない。
反対に、子どもが1人しかいなくても、避妊を拒否され、望まない性行為を強要されているなら、性的DVの問題が存在する可能性がある。
つまり、子どもの人数はDVを判断する指標にはならない。
【多産とDVの関係】妊娠強要や避妊妨害が起こる理由
多産とDVが結び付く背景には、妊娠・出産を通じて相手の行動や人生の選択肢を制限するという支配の構造がある。
ここで理解しておきたい概念が、リプロダクティブ・コアーションだ。
リプロダクティブ・コアーションとは?リプロダクティブ・コアーション(Reproductive Coercion)は、パートナーが相手の生殖に関する意思決定に介入し、妊娠や避妊、妊娠継続などを自分の望む方向にコントロールする行為を指す概念である。
米国産科婦人科学会(ACOG)は、性的・生殖に関する強制行為について、親密な関係における権力や支配と結び付いた行動として説明している。
代表的なものは次の3つだ。
1. 妊娠への圧力・妊娠強要
本人が妊娠を望んでいないにもかかわらず、妊娠するよう圧力をかける行為。
例えば、妊娠を拒否すると暴力を振るうと脅す、妊娠しなければ関係を終わらせると迫るなどが挙げられる。
2. 避妊妨害
妊娠を防ぐための行動を意図的に妨げる行為。
具体的には、避妊具を故意に使用できなくする、避妊薬を隠す・捨てる、合意した避妊方法を一方的に破るなどがある。
3. 妊娠の結果に対する強制
妊娠した後も本人の意思が尊重されない状態だ。
妊娠を継続するよう脅迫する場合だけでなく、本人が出産を望んでいるのに中絶を強要する場合も問題になる。
ACOGの説明では、これらは身体的暴力が伴わない場合にも発生し得る。つまり、殴る・蹴るといった行為がなくても、生殖に関する支配が成立する可能性がある。
多産DVが起こる背景にある支配の構造では、なぜ妊娠や出産を利用してパートナーを支配しようとするのか。
一律の理由はないが、考えられる構造には次のようなものがある。
- 意思決定権の独占: 妊娠するかどうかを自分だけで決めようとする。
- 経済的な依存の固定化: 出産や育児によって相手が仕事を続けにくくなり、経済的に依存する状況が生じる。
- 社会的な孤立: 育児負担や行動制限によって、友人や家族との交流が難しくなる。
- 性に関する支配: 性行為や避妊を一方的に決め、相手の拒否を認めない。
- 家族観の押し付け: 自分の理想とする家族構成を、相手の意思に関係なく実現しようとする。
注意したいのは、こうした背景がすべての多子世帯に当てはまるわけではないことだ。
また、経済的な負担や育児の大変さだけで、直ちにDVと判断することもできない。
問題になるのは、それらが相手の自由を奪うための手段として使われている場合である。
【公的調査を検証】内閣府のDV統計から分かること
多産とDVの関係を検討するうえで参考になるのが、内閣府男女共同参画局の「男女間における暴力に関する調査(令和5年度調査)」だ。
同調査は、2023年11月30日から12月24日にかけて実施され、2024年3月26日に公表された。
全国の18歳以上59歳以下の男女5,000人を対象とし、有効回答数は2,950人だった。配偶者からの暴力、交際相手からの暴力、不同意性交等の経験などを調べている。
配偶者からの暴力の被害経験は25.1%内閣府の調査によると、これまでに結婚したことがある人1,838人のうち、配偶者から身体的暴行、心理的攻撃、経済的圧迫、性的強要のいずれかを受けた経験がある人は、25.1%だった。
行為別の結果は次のとおり。
| 被害の種類 | 被害経験がある割合 |
|---|---|
| 身体的暴行 | 13.5% |
| 心理的攻撃 | 18.0% |
| 経済的圧迫 | 7.8% |
| 性的強要 | 6.5% |
| 4種類のいずれか | 25.1% |
出典:内閣府「男女間における暴力に関する調査(令和5年度調査)」配偶者からの暴力の被害経験。複数の被害類型は重複するため、各割合を合計してはならない。
特に注目したいのが、性的強要の項目だ。
内閣府の調査票では、性的強要の具体例として、嫌がっているのに性的行為を強要されること、見たくないポルノ映像を見せられること、同意していない性的画像・動画の撮影、避妊に協力しないことなどが挙げられている。
男女別に見ると、性的強要の被害経験は女性10.6%、男性1.1%だった。
この数字からも、妊娠・出産に関わる性的な意思決定を尊重することが、DV問題を考えるうえで重要だと分かる。
公的データと多産DVの関係を整理ここで、調査から分かることと、まだ判断できないことを整理しておきたい。
特に重要なのは、内閣府の令和5年度調査が、子どもの人数とDV被害の関係を直接検証した調査ではないという点だ。
性的強要6.5%という数字を、そのまま避妊妨害や妊娠強要の被害率として扱うこともできない。
したがって、現在の公的統計から「子どもが多い家庭ほどDVが多い」という因果関係を証明することはできない。
一方で、避妊への非協力が性的暴力の具体例として明示されていることは、妊娠・出産をめぐる支配が公的にもDVの問題として認識されていることを示している。
【DVの見分け方】妊娠・出産をめぐる支配をチェックする
多産DVを見分けるとき、分かりやすい暴力だけに注目すると、本質を見落とすことがある。
内閣府男女共同参画局は、DVを身体的・精神的・性的なものなどに分類し、複数の形態が重なって発生する場合もあると説明している。
こんな行為は性的DVの可能性がある内閣府が挙げている性的暴力の例には、次の行為がある。
- 嫌がっているのに性行為を強要する。
- 中絶を強要する。
- 避妊に協力しない。
- 見たくないポルノ映像などを無理に見せる。
夫婦間であっても、相手の同意が不要になるわけではない。
内閣府は、夫婦間の性交でも、状況によっては刑法第177条の不同意性交等罪に該当する場合があると説明している。婚姻関係があることを理由に、性的な強制が正当化されることはない。
妊娠・出産に関するセルフチェック次のような状況が繰り返されていないか、振り返ってみることが大切だ。
妊娠の意思決定
- 自分が妊娠を望むかどうかを自由に決められない。
- 妊娠を拒否すると怒鳴られたり、脅されたりする。
- 妊娠の時期や回数を一方的に決められる。
避妊に関する問題
- 避妊を求めても拒否される。
- 避妊具の使用を妨害される。
- 避妊薬や医療機関へのアクセスを制限される。
- 合意していた避妊方法を一方的に破られる。
妊娠後の意思決定
- 中絶するか出産するかについて、自分の意思を尊重してもらえない。
- 妊娠を継続するよう脅迫される。
- 出産後すぐに次の妊娠を要求される。
生活全体の支配
- 生活費を渡してもらえない。
- 仕事を辞めるよう強要される。
- 家族や友人との交流を制限される。
- 子どもに危害を加えると脅される。
すべての項目に当てはまる必要はない。また、単なる意見の違いや、一度の話し合いでの衝突と、継続的な支配は区別する必要がある。
判断の要点は、本人が拒否や相談をできるか、拒否したときに脅迫や制裁を受けないか、妊娠・避妊について自分の意思を反映できるかという点だ。
内閣府が示すDVの特徴を踏まえると、身体的暴力がないことだけを理由に問題を軽視するべきではない。
【子どもへの影響】面前DVと児童虐待はどう関係する?
多産とDVを考えるうえで、もう一つ見逃せないのが子どもへの影響だ。
妊娠や出産をめぐる支配が続く家庭では、パートナー間の関係だけでなく、家庭全体の安心感や養育環境にも影響が及ぶ可能性がある。
面前DVは心理的虐待に該当する内閣府男女共同参画局は、子どもの目の前で家族に対して暴力を振るうことを「面前DV」と説明し、子どもへの心理的虐待に当たると明示している。
これは、子ども自身が殴られていなくても成立する問題だ。
例えば、子どもの前で親同士が暴力を振るう、怒鳴り合う、脅迫するといった状況は、子どもの心理的安全を脅かす。
こども家庭庁が示す児童虐待の分類でも、心理的虐待には子どもの目の前で家族に対して暴力を振るう行為が含まれている。
DV家庭で育つ子どもに起こり得る影響内閣府の資料では、DVが子どもの心や身体にさまざまな影響を与えると説明している。
代表的な影響は次のとおりだ。
1. 常に緊張してしまう
家庭が安心できる場所ではなくなり、いつ暴力や怒鳴り声が始まるか分からないという不安を抱えることがある。
2. 自分を責める
親同士の争いについて、自分が原因なのではないかと考えたり、暴力を止められないことに無力感を覚えたりする場合がある。
3. 自己評価が低くなる
自分には価値がないと感じたり、他人の評価を過度に気にしたりすることがある。
4. 他者を信頼しにくくなる
親しい人間関係に不安を抱き、安心して人と関わることが難しくなる可能性がある。
5. 暴力による支配を当然視する
強い立場の人が弱い立場の人を支配することが自然だと学んでしまう危険性も指摘されている。
子どもの人数が多いと虐待リスクも高くなる?ここは慎重に考えたいところだ。
子どもが多いこと自体が虐待を意味するわけではない。きょうだいが多くても、家庭内で十分な愛情や安全が確保されている家庭はある。
ただし、妊娠を強要され、本人が望まないまま出産を繰り返している場合、妊娠・出産による身体的負担や育児負担が積み重なる可能性がある。
そのうえ、経済的DVや精神的DVが重なると、生活の安定や子どもの養育環境にも影響が及びかねない。
内閣府は、DV被害者が加害者への恐怖から子どもへの暴力を制止できなくなる場合や、加害者が被害者と子どもの関係を壊す場合についても紹介している。
したがって、多産DVの問題は、妊娠を強要された本人の被害だけでなく、子どもの安全と心理的な成長を含めて考える必要がある。
【2026年最新】多産DVや妊娠強要について相談できる窓口
妊娠・出産をめぐる支配に悩んでいても、「これはDVなのだろうか」「子どもがいるから離れられない」と考え、相談をためらう人もいる。
しかし、DVかどうかを自分だけで確定させてから相談する必要はない。
2026年11月現在、利用できる主な公的相談窓口は以下のとおりだ。
DV相談ナビ #8008
はれれば
最寄りの配偶者暴力相談支援センターなどにつながる全国共通番号。どこに相談すればよいか分からない場合に利用できる。
- 相談時間:転送先の相談機関の受付時間内
- 通話料:自己負担
- 一部のIP電話などは利用できない場合がある。
DV相談プラス0120-279-889
つなぐ・はやく
専門の相談員にDVについて相談できる窓口。
- 電話:24時間対応
- 通話料:無料
- チャット:12時~22時
- 外国語チャット:10言語に対応し、24時間受付
児童相談所虐待対応ダイヤル189
いちはやく
子どもが虐待を受けている可能性がある場合や、子育ての中で虐待につながりそうな状況がある場合の相談先。匿名での相談・通告もできる。
警察への緊急通報110
暴力が起きている、生命や身体に危険が迫っているなど、緊急の対応が必要な場合に利用する。
出典:内閣府男女共同参画局、政府広報オンライン、こども家庭庁の相談窓口案内。
相談する際は、次のような情報を伝えると状況を整理しやすい。
- 妊娠や出産について、本人がどのような意思を持っていたか。
- 避妊を求めたとき、相手がどのような対応をしたか。
- 性行為や妊娠を拒否した際に、脅迫や暴力があったか。
- 現在の妊娠・出産・育児の状況。
- 子どもが暴力を目撃しているか、直接被害を受けていないか。
- 経済的な支配や行動制限があるか。
記録やメッセージなどが残っていれば、相談時の参考になる。ただし、記録を集めるために危険を冒す必要はない。
相手にスマートフォンや通信履歴を確認される可能性がある場合は、安全な端末や場所から相談することも検討したい。
また、DV被害者への支援には、一時保護や生活再建の支援などもある。内閣府の案内では、必要に応じて子どもなど家族と一緒に保護を受けられる仕組みも紹介されている。
【多産DVに関するよくある質問(FAQ)】
Q1:子どもが4人、5人いる家庭は多産DVの可能性が高いのでしょうか?
A1:子どもの人数だけでは判断できない。夫婦双方が望んで出産している家庭もある。一方、避妊を拒否されたり、妊娠を強要されたりしている場合は、子どもの人数に関係なくDVの可能性を考える必要がある。
Q2:夫が避妊に協力してくれない場合もDVになりますか?
A2:内閣府男女共同参画局は、避妊に協力しないことを性的な暴力の具体例として挙げている。単なる意見の違いとは異なり、本人の意思を無視して避妊を妨害したり、望まない性行為を強要したりする行為は深刻な問題となる。
Q3:妊娠を強要された場合、どこに相談すればよいですか?
A3:DV相談ナビ「#8008」またはDV相談プラス「0120-279-889」に相談できる。DV相談プラスは電話で24時間対応している。子どもへの虐待が心配な場合は189、緊急の危険がある場合は110を利用する。
多産とDVには、妊娠や出産をめぐる支配という形で関係が生じる場合がある。
ただし、子どもが多いこと自体はDVの証拠ではなく、出産回数から家庭内の暴力を推測することもできない。
内閣府の令和5年度調査では、結婚経験者の25.1%に配偶者から何らかの暴力を受けた経験があり、性的強要の被害経験も6.5%確認されている。避妊への非協力が性的暴力の具体例に含まれていることも要点だ。
【プロの結論】見るべきなのは子どもの人数ではなく、本人の意思多産DVを考えるとき、特に重視したい判断基準は3つある。
1. 妊娠するかどうかを自分で決められるか。 妊娠を望まないという意思が尊重されているか。
2. 避妊や性行為について拒否できるか。 拒否したことを理由に脅迫や暴力を受けていないか。
3. 出産後も自分と子どもの安全が守られているか。 経済的な支配や面前DV、児童虐待が発生していないか。
この3点は、家庭内の問題を考える際の重要な判断材料になる。
妊娠や出産は、本来、本人の意思と尊厳が守られるべき選択だ。パートナーとの関係や家族構成を理由に、その意思が奪われてよいわけではない。
そして、DVの被害を受けている人が、子どもの人数や家庭の事情を理由に自分を責める必要もない。
「何人産んだか」ではなく「自分の意思で選べたか」。この視点こそが、多産とDVの関係を正しく理解するための出発点となる。