妊娠が分かったのに吐き気や食欲不振がなく、「つわりがないけれど赤ちゃんは大丈夫?」「自分だけ症状がないのは珍しいのでは?」と不安になる人は少なくありません。周囲の妊婦がつわりに苦しんでいる話を聞くと、自分の妊娠経過と比べて心配になることもあるでしょう。
実際には、つわりの有無や程度には大きな個人差があります。2026年時点の日本産科婦人科学会の診療ガイドラインや、国内外の医学研究を見ると、つわりがないことだけで胎児の発育不良や流産を判断することはできません。症状が出ない理由、ホルモンとの関係、妊娠週数による変化、妊婦健診で確認できることを整理します。
【実態を検証】つわりがない人は珍しい?割合と妊娠初期の特徴

つわりがない人は、決して特別な存在ではありません。妊娠初期に吐き気や嘔吐を経験する人が多い一方、ほとんど症状を感じないまま妊娠期間を過ごす人もいます。
つわりがない人は妊婦全体のどれくらい?日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会がまとめた「産婦人科診療ガイドライン―産科編2026」の改訂準備資料では、妊娠初期の悪心・嘔吐は妊婦の半数以上に見られると説明されています。
一方、海外の妊娠悪心・嘔吐に関するメタ解析では、何らかの症状を経験する割合は約69.4%でした。研究対象や症状の定義によって35~91%という幅があり、調査地域による違いも認められています。
この数字を単純に裏返すと、約3割は吐き気や嘔吐を経験しない計算になります。ただし、これは海外の研究をまとめた数字であり、日本人の妊婦にそのまま当てはめられる全国統計ではありません。
日本国内についても、つわりがない人の割合を一律に示す確定的な全国データはありません。公的な医学情報から分かるのは、つわりが妊娠初期によく見られる症状である一方、すべての妊婦に起こるわけではないということです。
つわりがない妊婦にも見られる妊娠初期の変化吐き気がなくても、妊娠に伴う身体の変化が起きている場合があります。
- 胸の張りや乳房の違和感
- 眠気や疲れやすさ
- 頻尿や便秘
- 下腹部の軽い違和感
- 食欲や味覚の変化
- 基礎体温の高温期が続く
これらも個人差が大きく、複数の症状が現れる人もいれば、妊娠初期を通じてほとんど自覚症状がない人もいます。
大切なのは、妊娠初期症状の数を妊娠の順調さを測る基準にしないことです。症状が少ないからといって、身体の中で妊娠に伴う変化が起きていないわけではありません。
【原因を解説】つわりがない人とある人の違いは?ホルモンバランスと個人差
つわりが起こる仕組みは、現在も研究が続いている分野です。妊娠に伴うホルモンの変化が深く関係していますが、単純にホルモンの量だけで症状の強さが決まるわけではありません。
hCGなど妊娠に伴うホルモンの変化つわりとの関連が古くから研究されてきたホルモンの一つが、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)です。
hCGは妊娠成立後に胎盤のもとになる組織から分泌され、妊娠初期に増加します。妊娠初期につわりが始まる時期とhCGの変化が重なることなどから、悪心・嘔吐との関係が指摘されてきました。
また、エストロゲンなどのホルモンも妊娠中の身体の変化に関係しています。ただし、hCGが多ければ必ずつわりが強くなる、少なければ必ずつわりがなくなるという単純な関係ではありません。
厚生労働省の「働く女性の心とからだの応援サイト」でも、つわりの原因は十分に解明されていないと説明されています。
2024年のNature研究で注目されたGDF15つわりの個人差を考えるうえで注目されているのが、GDF15というホルモンです。
2024年1月に学術誌Natureに掲載された研究では、妊娠中の吐き気や嘔吐、とりわけ重症の妊娠悪阻に、胎児・胎盤由来のGDF15と母体側の感受性が関係することが報告されました。
この研究では、母体の血液中に存在するGDF15の大部分が胎児・胎盤に由来することや、妊娠前のGDF15への曝露状況が、妊娠後の反応の強さに関係する可能性が示されています。
つまり、同じように妊娠していても、母体がホルモンの刺激をどの程度受け取るかによって症状が異なる可能性があるのです。
つわりの個人差を生む主な要素医学研究から分かっている関係性を整理すると、次のようになります。
| 関連要素 | 身体との関係 | つわりへの影響 |
|---|---|---|
| hCG | 妊娠初期に増加するホルモン | 吐き気との関連が研究されている |
| GDF15 | 主に胎児・胎盤に由来し、脳幹に作用するホルモン | 吐き気や嘔吐、妊娠悪阻との関係が示されている |
| 母体の感受性 | ホルモン刺激に対する身体の反応の違い | 同じような妊娠環境でも症状の強さが変わる |
| 遺伝的要因 | ホルモンの産生や反応に関係する遺伝的な違い | 妊娠悪阻などの発症リスクに関係する可能性がある |
| 環境・生活条件 | においや疲労、緊張などによる体調の変化 | 症状を悪化させる要因になることがある |
このように、つわりは複数の要因が関係する現象です。GDF15やhCGの数値だけで、つわりの有無や胎児の健康状態を判断できるわけではありません。
2026年の最新研究でも個人差の解明が進む2026年9月には、学術誌eBioMedicineに妊娠初期のGDF15の推移を調べた研究が掲載されました。
この研究では、正常な妊娠経過においてGDF15が妊娠7週頃まで大きく増加し、9週頃に横ばいになる傾向が報告されています。また、吐き気などの症状スコアは妊娠8週頃にピークを迎え、その後低下する傾向が示されました。
一方、妊娠経過によってGDF15の値には重なりがあり、研究段階では個人の妊娠状態を判定する検査として確立していません。
2026年現在、つわりのない理由を一つのホルモンや体質だけで説明することはできません。症状の有無を本人の努力や生活習慣の問題として捉える必要もありません。
【赤ちゃんは大丈夫?】つわりなしと胎児の発育・流産の可能性を検証
つわりがない人にとって最も気になるのは、赤ちゃんが順調に育っているかどうかでしょう。
医学的には、つわりがないこと自体が胎児の発育に悪影響を与えるという根拠はありません。吐き気や嘔吐がないからといって、赤ちゃんに栄養が届いていない、成長が止まっていると判断することはできません。
つわりなしでも赤ちゃんが順調に育つことはある妊娠初期の胎児は、非常に小さな段階から成長を始めています。妊娠初期には、母体が摂取する食事量が一時的に変化しても、それだけで直ちに胎児の発育不良につながるわけではありません。
こども家庭庁の妊娠・出産に関する情報サイトでも、妊娠初期の赤ちゃんはまだ小さく、必要なエネルギー量も多くないことが説明されています。
つわりがない人は、体調に合わせて食事を取り、必要な栄養を確保しながら生活できます。無理に食べ続けたり、つわりがある人と同じ食生活に合わせたりする必要はありません。
ただし、つわりの有無とは別に、妊娠中の栄養管理や葉酸の摂取、妊婦健診などは必要です。
つわりがないと流産の可能性が高くなる?流産とつわりの関係については、医学研究でも検討されています。
2016年にJAMA Internal Medicineに掲載された研究では、過去に1~2回の流産を経験した女性を含む797人の妊娠を対象に、吐き気や嘔吐と妊娠喪失との関連が調べられました。
その結果、吐き気がある場合や、吐き気と嘔吐がある場合には、症状がない場合と比較して妊娠喪失のハザードが低いという関連が確認されました。
ただし、この研究には重要な注意点があります。
- 対象者は過去に流産を経験した女性であり、一般の妊婦全体を代表する集団ではない。
- つわりと妊娠喪失の関連を調べた研究であり、つわりが流産を防ぐと証明したものではない。
- つわりがない個人の妊娠経過を予測する検査として使えるものではない。
したがって、研究でつわりのある妊婦の流産リスクが低い傾向を示したからといって、つわりがない人の流産リスクが高いと決めつけることはできません。
流産の可能性を判断する際には、妊娠週数、超音波検査の結果、出血や腹痛などの症状を総合的に確認します。
つわりが急になくなった場合も注意が必要?つわりが突然軽くなったり、数日間症状がなくなったりすることもあります。妊娠初期の体調は一定ではなく、日によって変動するため、症状の変化だけで異常と判断することはできません。
一方、出血や強い腹痛が伴う場合は、つわりの変化とは別に診察が必要です。症状が消えたことだけで安心したり、反対に流産を疑って過度に不安になったりせず、気になる変化があれば産婦人科へ相談しましょう。
【妊娠週数との関係】つわりはいつからいつまで?症状がない場合の経過
つわりが始まる時期やピーク、終わる時期には個人差があります。一般的な目安を知っておくと、妊娠初期に症状がない理由を考える際にも役立ちます。
妊娠週数ごとのつわりの一般的な変化厚生労働省の母性健康管理に関する情報では、つわりは一般に妊娠5~6週頃から出現し、妊娠12週頃には落ち着いていく場合が多いとされています。症状が強くなるピークは妊娠8~12週頃が目安です。
- 妊娠4週頃:妊娠検査薬で陽性になる人が増える時期。つわりを感じない人も多い。
- 妊娠5~6週頃:吐き気や食欲不振などが始まることがある。
- 妊娠7~9週頃:症状が強くなる人がいる。日常生活に影響する場合もある。
- 妊娠10~12週頃:症状のピークを過ぎ、少しずつ楽になる人もいる。
- 妊娠12~16週頃:つわりが落ち着く人が多い。
- 妊娠16週以降:症状が続く場合は、経過やほかの病気の可能性も含めて医師に相談する。
これはあくまで一般的な目安です。妊娠5週から吐き気が始まる人もいれば、最後までほとんどつわりを感じない人もいます。
妊娠初期に症状がまったくない場合は?妊娠4~5週頃は、まだつわりを自覚していない人もいます。妊娠週数の数え方は最終月経の開始日を妊娠0週0日とするため、実際の受精時期と身体の変化を感じる時期には時間的なずれがあります。
また、妊娠6週や7週になっても症状が出ないことがあります。妊娠週数が進んでいるのに吐き気がないからといって、それだけで妊娠経過に問題があるとはいえません。
妊娠週数とつわりの発生時期は関連していますが、必ず同じタイミングで症状が現れるわけではないのです。
【不安を解消】つわりがない人が妊婦健診・超音波検査で確認したいこと
つわりがないことが気になっている場合、最も確実な確認方法は産婦人科での診察です。自覚症状だけで赤ちゃんの発育を判断することはできません。
超音波検査で確認できる赤ちゃんの状態妊婦健診で実施される超音波検査では、妊娠週数や妊娠経過に応じて、次のような項目を確認します。
- 子宮内に妊娠しているか
- 胎嚢や胎芽の状態
- 胎児の心拍が確認できるか
- 胎児の大きさと妊娠週数の整合性
- 妊娠中期以降の胎児の発育状況
- 胎盤の位置や羊水量など
妊娠初期には、胎児の大きさから妊娠週数を推定することもできます。ただし、妊娠のごく初期は超音波検査で確認できるものが限られる場合があり、後日改めて検査することもあります。
こども家庭庁の妊娠中の検査に関する情報サイトでは、超音波検査によって妊娠初期の週数推定や、その後の胎児の発育、胎盤の位置、羊水量などを確認できると説明されています。
妊婦健診は症状がなくても受ける必要があるつわりがないと体調が良く、妊娠している実感が薄くなることがあります。しかし、妊婦健診は自覚症状の有無にかかわらず受けるものです。
こども家庭庁が示す標準的な妊婦健診の頻度は、次のとおりです。
- 妊娠初期~23週:4週間に1回
- 妊娠24~35週:2週間に1回
- 妊娠36週~出産:1週間に1回
妊娠経過や母体の状態によっては、これより頻繁な診察が必要になることもあります。
妊婦健診では、体重や血圧、尿検査などを通じて母体の健康状態も確認します。つわりがないことは、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などのリスクがないことを意味しません。
健診時に医師へ伝えたいことつわりがなくて不安な場合は、次のような点を診察時に伝えておくとよいでしょう。
- 妊娠週数と、つわりがまったくない期間
- 胸の張りや眠気など、ほかの妊娠初期症状の有無
- 出血や下腹部痛などの変化
- 食事や水分の摂取状況
- 前回の超音波検査で確認できた内容
医師に「つわりがないのですが、赤ちゃんの発育は順調でしょうか」と直接尋ねても問題ありません。気になることをそのまま伝えることが、安心して妊娠生活を送るための第一歩です。
【受診の目安】妊娠悪阻の症状と妊娠中に注意したい危険サイン
つわりがない場合でも、妊娠中の体調変化には注意が必要です。また、つわりがある場合には、通常の吐き気と治療が必要な妊娠悪阻を区別することも大切です。
妊娠悪阻とは?通常のつわりとの違い妊娠悪阻は、つわりが重症化し、食事や水分の摂取が難しくなったり、脱水や栄養障害、電解質異常などを引き起こしたりする状態です。
日本産科婦人科学会の2026年版診療ガイドラインの公開改訂資料では、妊娠悪阻は全妊婦の0.5~2%に発症すると説明されています。
通常のつわりと妊娠悪阻には、次のような違いがあります。
- 一般的なつわり:吐き気や食欲不振があるものの、水分や食事をある程度摂取できる。
- 妊娠悪阻:繰り返す嘔吐によって食事や水分を摂れず、体重減少や脱水、栄養状態の悪化が生じる。
2026年版の公開改訂資料では、体重が5%以上減少し、水分を経口摂取できない場合や、脱水所見がある場合などに輸液を検討するとされています。
早めに産婦人科へ相談したい症状次のような症状がある場合は、つわりの程度にかかわらず、医療機関へ相談してください。
- 水分を飲んでもすぐに吐いてしまう
- 尿の量が極端に少ない、尿の色が濃い
- 口や皮膚が乾燥している
- 強いめまいや立ちくらみがある
- 短期間に体重が大きく減少した
- 吐いたものに血液が混じる
水分を摂れない状態が続く場合は、体重減少が大きくなるまで我慢する必要はありません。早めに受診して、点滴などの治療が必要か判断してもらいましょう。
つわりがなくても見逃してはいけない症状妊娠初期に注意したいのが、性器出血や強い腹痛です。
少量の出血が必ずしも流産を意味するわけではありませんが、切迫流産や異所性妊娠などの可能性もあります。出血があれば産婦人科に連絡し、受診の必要性を確認してください。
特に、強い腹痛、大量の出血、冷や汗、めまい、失神しそうな感覚などがある場合は、速やかに医療機関で診察を受ける必要があります。症状が激しい場合は救急要請も検討してください。
重要なのは、つわりがないことを異常のサインと決めつけない一方、ほかの危険な症状を見逃さないことです。
【よくある質問】つわりがない人に関するFAQ
Q1:つわりがない人は赤ちゃんが元気に育っていないのでしょうか?
A1:そのようなことはありません。つわりの有無と胎児の発育は直接結び付けられません。赤ちゃんの状態は超音波検査や妊婦健診で確認します。
Q2:妊娠初期にまったく症状がないのは珍しいですか?
A2:珍しいことではありません。妊娠初期の悪心・嘔吐は半数以上に見られますが、症状がほとんどない妊婦も一定数います。
Q3:つわりがないと流産の可能性が高くなりますか?
A3:つわりがないという理由だけで流産の可能性が高いとは判断できません。流産の診断には超音波検査などが必要です。出血や強い腹痛があれば早めに受診してください。
Q4:妊娠何週になってもつわりがないことはありますか?
A4:あります。妊娠5~6週頃から始まる人が多いものの、妊娠初期を通してほとんど症状を感じない人もいます。
Q5:つわりがないのはホルモンが少ないからですか?
A5:一概にはいえません。hCGやGDF15などのホルモン、母体の感受性、遺伝的要因などが複雑に関係すると考えられています。症状だけでホルモンの状態を判断することはできません。
Q6:つわりが急になくなったら病院に行くべきですか?
A6:つわりが軽くなったり、日によって感じなくなったりすることはあります。症状の変化だけで異常とはいえませんが、出血や腹痛などを伴う場合は速やかに産婦人科へ相談してください。
Q7:つわりがない人も妊婦健診を受ける必要がありますか?
A7:必要です。妊婦健診は自覚症状がなくても母体と胎児の健康状態を確認するために行われます。医師の指示に従って定期的に受診してください。
つわりがない人は決して珍しい存在ではありません。妊娠初期の悪心や嘔吐には大きな個人差があり、ホルモンの変化、GDF15への感受性、遺伝的な要因など、複数の仕組みが関係しています。
2026年の研究でも、つわりの発症メカニズムや個人差について新しい知見が蓄積されています。しかし、つわりの有無だけで胎児の発育や流産の可能性を判断する方法は確立されていません。
妊娠生活で意識したい判断基準は、次の3つです。
- 症状の有無だけで判断しない:つわりがなくても妊娠が順調に進むことはある。
- 妊婦健診を継続する:超音波検査や必要な検査を通じて、母体と赤ちゃんの状態を確認する。
- 異常な症状は早めに相談する:出血、強い腹痛、脱水などがあれば我慢せず受診する。
つわりがないことを理由に、自分の妊娠をほかの人と比較する必要はありません。吐き気がない妊娠生活も一つの自然な経過です。身体の状態を大切にしながら、定期的な妊婦健診を受け、安心して赤ちゃんの成長を見守っていきましょう。
主な根拠資料・参考研究
- 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン―産科編2026」およびCQ201公開改訂資料。
- 厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」つわり・妊娠悪阻に関する情報。
- こども家庭庁「妊娠中の検査に関する情報サイト」「妊婦健診に関する取組み」。
- Fejzoら「GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy」Nature、2024年。
- Hinkleら「Association of Nausea and Vomiting During Pregnancy With Pregnancy Loss」JAMA Internal Medicine、2016年。
- 2026年9月、eBioMedicine掲載「Early pregnancy GDF15 trajectories and their association with normal gestation, pregnancy loss, and hyperemesis gravidarum」。
- 妊娠悪心・嘔吐の世界的な有病率に関するメタ解析。