「卑怯」は「ひきょう」と読み、名詞または形容動詞として使われます。
小学館の『デジタル大辞泉』では、次の2つの意味を中心に説明されています。
1. 勇気がなく、物事に正面から取り組もうとしないこと。
2. 正々堂々としていないこと。また、そのような態度や行動。
『精選版 日本国語大辞典』でも、「臆病」という意味と、「心がいやしく、物事をするにあたって正々堂々としない」という意味が記録されています。
つまり、卑怯には大きく分けて2つの側面があります。
1. 勇気がなく、責任や困難から逃げること自分に不都合な状況になったとき、正面から向き合わずに逃げたり、他人に責任を押しつけたりする態度です。
例えば、次のような行動が該当します。
- 自分の失敗を認めず、他人のせいにする。
- 都合が悪くなると話し合いから逃げる。
- 自分より立場の弱い相手にだけ強く出る。
- 自分が不利になると約束やルールを一方的に変える。
ただし、危険な状況から逃げることや、不当な要求を拒否することまで卑怯と評価するのは適切ではありません。自分を守るための撤退には正当な理由があるからです。
2. 自分の利益のために不公正な手段を使うこともう一つは、勝つため、得をするため、責任を逃れるために、相手に不利益を与えるような方法を選ぶことです。
例えば、正当な競争をせずに相手の秘密を利用したり、陰で悪評を流したりする行動が挙げられます。
ここで重要なのは、単に自分の利益を優先することと、卑怯な手段を使うことは同じではないという点です。
交渉で自分に有利な条件を求めることや、競争で勝つために努力することは、ルールと公平性を守っている限り、卑怯とは限りません。
卑怯かどうかを判断する鍵は、自分の利益を得るために、正当なルールや相手の信頼を踏みにじっていないかという点にあります。
【卑怯の語源】なぜ「卑怯」という漢字が使われるのか
「卑怯」という漢字を見ると、「卑しい」と「怯える」という意味が組み合わさった言葉のように感じられます。
しかし、語源をたどると、興味深い歴史があります。
「卑怯」はもともと「比興」だった?小学館の『デジタル大辞泉』では、「卑怯」は本来「比興」であり、現在の漢字表記は当て字と考えられると説明されています。
もともとの「比興」は、中国の古典『詩経』に登場する詩の表現技法に由来する言葉です。
『精選版 日本国語大辞典』によると、比興は「比」と「興」という修辞法に関係し、物事にたとえて面白く表現することを意味していました。
その後、日本では意味が変化していきます。
- 古い時代: 他の物にたとえて面白く表現すること。
- 中世頃: 不合理なこと、いやしいこと、つまらないことなどの意味も生まれる。
- 近世以降: 臆病なこと、正々堂々としていないこと、卑劣なことを表すようになる。
なお、古い「比興」の意味には、「非拠」の変化とする説や、「非興」に由来するという説もあります。語源には複数の説明があり、単純に一つの変化だけで説明できるわけではありません。
「卑」と「怯」が表す意味現在の「卑怯」という表記を漢字ごとに見ると、意味の理解が深まります。
| 漢字 | 意味 | 卑怯との関係 |
|---|---|---|
| 卑 | いやしい、品性が劣る | 心や行動の品性が低いこと |
| 怯 | おびえる、恐れる | 勇気がなく、臆病であること |
「卑」は「卑劣」「卑屈」「卑下」などにも使われ、品性や価値が低いことを表す場合があります。
現在の卑怯という言葉には、こうした漢字の印象も重なり、単なる臆病さだけではなく、人としての態度や品性に対する批判というニュアンスが生まれています。
卑怯の類語と言い換え表現卑怯には複数の類語があります。ただし、それぞれの言葉には微妙な違いがあります。
- 卑劣: 品性や行動がいやしく、悪質であること。
- ずるい: 自分に有利になるように立ち回ること。
- 狡猾: 悪賢く、巧みに相手を出し抜くこと。
- 姑息: その場を一時的にしのぐこと。現在は不正な手段という意味でも使われる。
- 臆病: 勇気がなく、物事を恐れること。
- さもしい: 心がいやしく、品性に欠けること。
- 不公正: 公平な基準やルールに従っていないこと。
辞書でも「卑劣」「姑息」「卑しい」などが卑怯の関連語として挙げられています。
【卑怯と卑劣・ずるいの違い】似ている言葉を比較
「卑怯」「卑劣」「ずるい」は、どれも否定的な評価に使われる言葉です。
しかし、同じ意味ではありません。
使い分けるときは、何を問題にしているのかを考えると理解しやすくなります。
卑怯と卑劣の違い卑怯は正々堂々としない態度、卑劣は品性や行動の悪質さに重点を置く言葉です。
例えば、相手との勝負で不利になると逃げ出した場合、「卑怯だ」という表現が自然です。
一方、相手を意図的に傷つけたり、弱みにつけ込んで利益を得たりした場合は、「卑劣だ」という表現が適しています。
卑怯は臆病さを含みますが、卑劣は必ずしも臆病さを必要としません。大胆であっても、悪質な行動を取れば卑劣と評価されます。
卑怯とずるいの違い「ずるい」は、卑怯よりも日常会話で幅広く使われる言葉です。
例えば、友人だけが特別扱いされたときに「それはずるい!」と言うことがあります。
この場合、必ずしも相手の人格を強く非難しているわけではありません。
一方、「卑怯だ」という表現には、相手の行動が正々堂々としていないという、より強い道徳的な批判が含まれます。
国立国語研究所の語彙資料でも、「ずるい」は人の性質と行為・方法の両方に使われ、公正でないことを表す語として整理されています。
3つの言葉を一覧で比較
卑怯
臆病さや、不公正な手段を使う態度が問題になる。
例:不利になると仲間を裏切って逃げた。卑怯な行動だ。
卑劣
相手を傷つけるような、道徳的に許されない行動が問題になる。
例:相手の弱みにつけ込んで脅すのは卑劣だ。
ずるい
自分に有利なように立ち回る、不公平な態度が問題になる。
例:自分だけルールを守らないなんてずるい。
卑怯の反対の意味を表す言葉として、代表的なのは次の表現です。
| 対義語 | 意味 |
|---|---|
| 正々堂々 | 正しく立派で、公正な態度 |
| 公明正大 | 公平で、隠し立てのないこと |
| 勇敢 | 恐れずに困難へ立ち向かうこと |
| 堂々 | おそれず、立派に振る舞うこと |
| 誠実 | 真心を持って人や物事に向き合うこと |
特に「正々堂々」は、卑怯の反対を表す際に使いやすい言葉です。
『精選版 日本国語大辞典』では、態度が正しく立派であり、卑怯な手段を取らないことを「正々堂々」の意味として説明しています。
なお、卑怯には臆病さと不公正さの両方が含まれるため、すべての意味を一語で反対にする絶対的な対義語があるわけではありません。
臆病さの反対なら「勇敢」、不公正な態度の反対なら「公明正大」や「正々堂々」と使い分けるのが自然です。
【卑怯な人の特徴】行動パターンと卑怯者の心理
卑怯な人という言葉を聞くと、他人を裏切る人や、自分の利益しか考えない人を想像する可能性があります。
しかし、実際には卑怯と評価される行動にはいくつかの共通点があります。
ここでは、性格を一方的に決めつけるのではなく、具体的な行動パターンと心理的な背景を整理します。
1. 自分の失敗を他人のせいにする卑怯だと感じられやすい行動の一つが、責任転嫁です。
自分の判断で問題を起こしたにもかかわらず、部下や同僚、友人などに責任を押しつけます。
例えば、仕事でミスをした際に、自分の確認不足を認めず、担当者の説明が悪かったと主張するケースです。
失敗を認めることは誰にとっても簡単ではありません。しかし、責任を負うべき立場にある人が、意図的に他人へ負担を押しつける行為は、信頼を損ないます。
2. 相手によって態度を変える自分より立場が強い人には従順なのに、弱い立場の人には横柄な態度を取る人もいます。
例えば、上司の前では協力的に振る舞いながら、部下には無理な仕事を押しつけるような行動です。
相手の立場によって態度を変えること自体が、すべて卑怯というわけではありません。
問題なのは、相手の弱さや立場を利用し、自分だけが有利になる状況を意図的につくることです。
3. 自分に不利になると約束を破る自分が得をするときには約束を守る一方、損をすると分かった途端に約束をなかったことにする人もいます。
特に、相手にだけ義務を求め、自分は責任を果たさないという態度は不公平です。
4. 陰で他人を攻撃する本人のいない場所で悪口を広めたり、事実を誇張して相手の評判を落としたりする行為です。
直接話し合うことを避け、第三者を利用して相手を追い込む場合、卑怯な手段と受け取られやすくなります。
ただし、匿名で相談したり、身の安全を守るために第三者へ助けを求めたりする行為は、正当な場合があります。
5. 自分だけルールの例外になろうとする他人には厳しいルールを適用しながら、自分には都合のよい解釈をする行動です。
例えば、他人の遅刻は厳しく責めるのに、自分が遅刻した場合には事情を並べて正当化するケースが該当します。
卑怯者の心理には何がある?卑怯な行動の背景には、必ずしも生まれつきの悪意だけがあるわけではありません。
いくつかの心理的要因が考えられます。
① 失敗や批判を恐れる心理
自分の評価が下がることを恐れ、失敗を隠したり責任を回避したりします。
② 自分の利益を優先する心理
他人への影響よりも、自分が得られる利益や目先の安心を優先します。
③ 自己正当化する心理
自分の行動を悪いことだと認識しないように、相手にも問題があった、仕方がなかったと説明します。
④ 責任を分散させる心理
集団の中で、ほかの人もやっている、自分だけの判断ではないと考え、自分の責任を軽く捉えます。
心理学では、このように道徳的な自己調整の働きを弱める認知過程を「道徳的 disengagement(道徳的 disengagement)」という枠組みで研究しています。
2008年に『Journal of Applied Psychology』に掲載されたDetertらの研究では、大学生307人を対象に、道徳的 disengagementと倫理的判断の関係が調査されました。これは卑怯な人を分類する研究ではありませんが、人が自分の行動を正当化しながら倫理的に問題のある判断をする仕組みを理解する手がかりになります。
重要なのは、こうした心理があるからといって、すべての人が同じ理由で卑怯な行動を取るわけではないことです。
一度の失敗や逃避だけで、その人の人格全体を卑怯と判断するのは慎重であるべきです。
卑怯かどうかを判断する5つのポイント相手の行動を評価するときには、次の基準が役立ちます。
1. 公平性: 自分と相手に同じルールを適用しているか。
2. 責任: 自分の行動によって生じた問題に向き合っているか。
3. 透明性: 相手を欺いたり、重要な事実を意図的に隠したりしていないか。
4. 相手への配慮: 自分の利益のために、他人の弱みを利用していないか。
5. 一貫性: 自分に都合の悪い状況でも、同じ基準で行動しているか。
この5つを確認すれば、単なる意見の違いや自己防衛と、本当に不公正な行動とを区別しやすくなります。
【卑怯の使い方・例文】日常会話やビジネスでの正しい表現
「卑怯」は、相手の行動や手段を批判するときに使う言葉です。
強い否定的なニュアンスがあるため、使用する場面には注意が必要です。
卑怯を使った日常会話の例文- 自分が不利になった途端に約束を破るなんて卑怯だ。
- 人の失敗を利用して自分だけ評価を上げるのは卑怯なやり方だ。
- 仲間を裏切って自分だけ逃げるのは卑怯だと思う。
- 相手の弱みにつけ込むような卑怯なことはしたくない。
- 正々堂々と勝負せず、陰で妨害するのは卑怯な行為だ。
- 責任を部下に押しつけるような対応は卑怯だと感じます。
- 競合他社の機密情報を不正に利用することは、卑怯な手段です。
- 自分の都合で契約条件を一方的に変更するのは、公正な対応とはいえません。
- 問題が発生したときこそ、責任の所在を明確にして対応すべきです。
ビジネスでは「卑怯」という直接的な表現を避け、「不公正」「不誠実」「責任転嫁」「不適切な対応」といった言葉に置き換えると、客観的で伝わりやすくなります。
「卑怯な」「卑怯だ」「卑怯にも」の違い文法上の使い方も確認しておきましょう。
| 表現 | 使い方 | 例文 |
|---|---|---|
| 卑怯だ | 断定する | そんなことをするのは卑怯だ。 |
| 卑怯な | 名詞を修飾する | 卑怯な手段を使う。 |
| 卑怯にも | 行動の様子を強調する | 卑怯にも責任を逃れた。 |
| 卑怯者 | 人物を指す | 彼を卑怯者と呼ぶ。 |
| 卑怯さ | 性質や程度を表す | その行動の卑怯さに驚いた。 |
「卑怯者」は特に強い人格批判になるため、単に意見が合わない相手や、失敗した相手に対して安易に使わないことが大切です。
「卑怯」と言われたときの対応誰かに卑怯だと言われた場合、まずは何を問題視されているのかを確認が必要です。
例えば、次のように対応できます。
- どの行動が卑怯だと感じたのか具体的に聞く。
- 自分の行動に問題があったなら認める。
- 誤解があるなら、経緯や理由を説明する。
- 相手の感情的な非難と、客観的な事実を分けて考える。
相手が「卑怯だ」と言ったからといって、その評価が必ず正しいとは限りません。
言葉の強さに反応するより、具体的な行動について話し合うことが大切です。
【卑怯の英語表現】cowardly・unfair・meanの違い
卑怯を英語に翻訳するときは、どの意味で使っているのかによって表現が変わります。
小学館の『プログレッシブ和英中辞典』では、臆病という意味には「cowardice」「cowardly」、卑劣という意味には「meanness」「mean」などが挙げられています。
代表的な英語表現| 英語 | 日本語の意味 | 使用場面 |
|---|---|---|
| cowardly | 臆病な、卑怯な | 勇気がない行動 |
| cowardice | 臆病、卑怯 | 臆病な性質 |
| unfair | 不公平な | 公正でない行動 |
| mean | 意地悪な、卑劣な | 相手を傷つける行動 |
| underhanded | 不正な、卑劣な | こそこそした不正手段 |
| dirty trick | 汚い手、卑怯な手段 | 相手を出し抜く行動 |
① That was cowardly.
あれは卑怯だった。
臆病な態度や、勇気のない行動を批判するときに使えます。
② That's not fair.
それは不公平だよ。
相手の行動が不公平だと伝えたいときに自然な表現です。
③ He played a dirty trick on me.
彼は私に卑怯な手を使った。
相手に対して不正な手段を使われた場合に使えます。
④ Don't use underhanded methods.
卑怯な手段を使わないでください。
不正な方法や、裏工作を批判するときに適しています。
⑤ He is a coward.
彼は臆病者だ。
相手の臆病な性質を表す表現です。
英語では、日本語の「卑怯」に対応する単語が一つだけあるわけではありません。
臆病さならcowardly、公平性の問題ならunfair、悪質な行為ならmeanやunderhandedというように、伝えたい内容に応じて選ぶことが大切です。
【卑怯とは何か】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:卑怯と臆病は同じ意味ですか?
卑怯と臆病は似ていますが、完全に同じではありません。臆病は恐怖心が強く、勇気がないことを意味します。一方、卑怯には臆病さに加えて、不公正な手段を使うことや、正々堂々としない態度という意味もあります。
Q2:卑怯と卑劣はどちらが悪い意味ですか?
どちらも強い否定的な意味を持ちますが、重点が異なります。卑怯は正面から向き合わない態度や不公正な手段、卑劣は品性や行為の悪質さを強調します。単純にどちらが悪いとは決められません。
Q3:卑怯の反対語は何ですか?
代表的な反対表現は「正々堂々」です。ほかに「公明正大」「勇敢」「誠実」などがあります。臆病さの反対には勇敢、不公正な態度の反対には公明正大が適しています。
Q4:卑怯な人にはどのような特徴がありますか?
責任転嫁をする、自分に都合よくルールを変える、相手の弱みを利用する、不利になると約束を破るといった行動が特徴として挙げられます。ただし、一度の行動だけで人格を決めつけることは避けるべきです。
Q5:卑怯とずるいは日常会話でどう使い分けますか?
「ずるい」は、相手だけが得をしている場合など、比較的軽い不満にも使います。「卑怯」は、相手が正々堂々としない手段を使ったことに対する、より強い非難に使われます。
Q6:自分を守るために逃げることも卑怯ですか?
必ずしも卑怯ではありません。危険な状況から離れたり、不当な要求を断ったりすることは正当な自己防衛です。問題になるのは、自分の責任を意図的に他人へ押しつけるなど、不公正な行動を取る場合です。
卑怯とは、勇気がなく物事に正面から向き合わないこと、または自分の利益を優先して正々堂々としない態度や行動を指します。
語源をたどると、もともとは「比興」という表記に関係する歴史があり、現在の「卑怯」という意味に至るまでには、時代とともに意味の変化がありました。
今回の内容を整理すると、次のようになります。
- 卑怯: 臆病であることや、正々堂々としないこと。
- 卑劣: 品性や行動が悪質であること。
- ずるい: 自分に有利になるように不公平に立ち回ること。
- 対義語: 正々堂々、公明正大、勇敢など。
- 英語: cowardly、unfair、mean、underhandedなど。
人の行動を卑怯と判断するときには、結果だけでなく、その人がどのような手段を選び、誰にどのような影響を与えたのかを見る必要があります。
また、失敗を恐れて逃げてしまうことと、他人を犠牲にして自分だけ利益を得ようとすることは区別しなければなりません。
本当の意味で正々堂々とした態度とは、自分に有利なときだけ正しいことをするのではなく、不利な状況でも責任と公平さを大切にすることです。
「卑怯」という言葉の意味を正しく理解することは、他人の行動を冷静に判断するだけでなく、自分自身の振る舞いを見直すことにもつながります。