ひまわりの種と野球の結び付きは、1950年代のアメリカにさかのぼる。MLB公式サイトが紹介する球場グルメの歴史によると、この時代にスタン・ミュージアルとエノス・スローターという2人の名選手が、ひまわりの種を好んで食べていた。
2人はいずれもセントルイス・カージナルスで活躍した殿堂入り選手だ。当時は現在のようにベンチでひまわりの種を食べる光景が一般化していたわけではないが、試合中に口を動かして過ごす習慣の先駆けとして知られている。
そもそも、なぜ野球選手は何かを噛んでいたのかひまわりの種が広がる以前、アメリカの野球界では噛みタバコが一般的だった。
その背景には、野球の試合環境がある。19世紀のグラウンドは現在ほど整備されておらず、乾燥した土ぼこりが舞う環境でプレーすることも多かった。選手たちは噛みタバコで唾液の分泌を促し、口の乾燥を和らげていた。また、唾液を使ってグラブを湿らせる行為も見られたという。
しかし、タバコには口腔がんをはじめとする健康上のリスクがある。健康への意識が高まるにつれ、選手の間でも別のものを噛む習慣が広がっていった。ひまわりの種は、塩味があり、口の中で殻を割る動作も楽しめるため、代替品として受け入れられやすかった。
つまり、ひまわりの種の普及には、単なる食の好みだけではなく、野球界に長く存在した「何かを噛み、吐き出す」という行動様式が関係している。
レジー・ジャクソンが普及を加速させたひまわりの種を野球界の定番に押し上げた人物として欠かせないのが、レジー・ジャクソンだ。
1960年代後半、オークランド・アスレチックスで活躍していたジャクソンは、試合中にひまわりの種を食べる姿で知られるようになった。その後、1970年代にかけて人気が拡大。スター選手が実践していたこともあり、ほかの選手たちにも広がっていった。
ジャクソンは単に暇つぶしとして食べていたわけではない。1980年に『Sports Illustrated』で紹介された発言では、ひまわりの種に含まれる栄養素についても評価していた。
MLB公式サイトによれば、ジャクソンはタンパク質やチアミン、ナイアシン、鉄、マグネシウム、リンなどを挙げている。通算563本塁打を記録したスター選手の習慣は、競技者にとっても関心を集めるものだった。
ここで重要なのは、ミュージアルとスローターが1950年代の普及前史をつくり、ジャクソンが大衆的な人気を押し上げたという違いだ。ジャクソンが世界で初めて食べたわけではない。
【理由】ベンチでひまわりの種を食べるのは集中力と気分転換のため?

メジャーリーガーがひまわりの種を食べる理由は、大きく分けて精神的なリラックス、試合中の退屈対策、口を動かす習慣、塩分などの栄養補給という4つに整理できる。
1. 緊張や不安を和らげる野球は、常に全員が動き続ける競技ではない。打席が回ってくるまでベンチで待つ時間があり、外野手も打球が飛んでこない間は待機する。
投手も、登板するまでブルペンで長時間待つことがある。こうした時間には、試合の緊張やプレッシャーが積み重なりやすい。
そこで、ひまわりの種を噛む動作が気分転換になる。口を動かし、殻を割り、中身を取り出すという一連の動作が、選手の意識を一時的に別のことへ向けるきっかけになるのだ。
2013年のCBS Minnesotaの取材では、元ミネソタ・ツインズのジャスティン・モルノーが、試合中に生まれる神経の高ぶりを紛らわせるため、ベンチでひまわりの種を食べると説明している。
また、同じ報道でトニー・オリバも、試合中に何か楽しめることが必要だという趣旨の発言をしている。選手自身の経験からも、気分転換としての役割がうかがえる。
2. 口を動かすことでリズムをつくるひまわりの種を噛む行為には、一定のリズムがある。
殻を割り、舌で中身を分け、殻を吐き出す。この動作を繰り返すことで、試合中の待機時間に一定の行動パターンが生まれる。
2024年10月のThe Atlanticの記事では、野球研究者や球団関係者、元選手などへの取材を通じ、咀嚼が選手のリズムづくりや緊張の発散に関係するという複数の見方が紹介された。
ただし、噛むことで必ず集中力が高まるという医学的な効果が確立しているわけではない。実際には、選手本人が落ち着くために利用している習慣として理解するのが適切だ。
3. 塩分や栄養素を補給できるひまわりの種の中身には、タンパク質や脂質、ビタミンE、ミネラルなどが含まれている。塩味の付いた商品ならナトリウムも摂取できる。
大量に汗をかくスポーツでは、ナトリウムなどの電解質を補給することが重要になる。ひまわりの種に含まれる塩分は、その点でも選手にとって身近な要素だ。
ただし、ひまわりの種だけで試合中に必要な栄養や水分を補えるわけではない。水分補給やスポーツドリンク、通常の食事と組み合わせて考える必要がある。
4. 試合中の退屈を解消できる野球の特徴は、プレーとプレーの間に比較的長い時間があることだ。
この時間をどう過ごすかは、選手によって異なる。ガムを噛む選手もいれば、ひまわりの種を食べる選手、キャンディーなどを口にする選手もいる。
The Atlanticの取材では、元選手や野球史研究者から、長い待機時間に意識を保ち、退屈や精神的な疲労を紛らわせるために咀嚼が利用されているという説明も紹介されている。
つまり、ひまわりの種は栄養補給だけでなく、野球という競技の時間構造に適したスナックなのだ。
【歴史と関係者】ひまわりの種とメジャーリーガーの重要人物・年表
ひまわりの種が野球文化として定着するまでには、先駆者、普及の中心人物、現代の習慣を受け継ぐ選手たちが関わっている。
それぞれの人物が果たした役割を整理すると、単なる食習慣がチーム文化へ発展した流れが見えてくる。
| 人物・時代 | 球団・関係 | ひまわりの種との関係 |
|---|---|---|
| スタン・ミュージアル | セントルイス・カージナルス | 1950年代の愛好者として知られる |
| エノス・スローター | セントルイス・カージナルス | ミュージアルとともに初期の普及を支えた |
| レジー・ジャクソン | オークランド・アスレチックスなど | 1960年代後半以降、習慣の知名度を高めた |
| ジャスティン・モルノー | ミネソタ・ツインズ | ベンチでの気分転換として食べる理由を説明 |
| テオスカー・ヘルナンデス | ロサンゼルス・ドジャース | 本塁打後の種まきパフォーマンスを定着させた |
出典:MLB公式サイト、CBS Minnesota、Los Angeles Timesの報道をもとに整理。
2024年には本塁打後の「ひまわりの種シャワー」も話題に現在の野球文化を象徴する出来事として、テオスカー・ヘルナンデスの取り組みがある。
Los Angeles Timesの2024年6月21日付の記事によると、ヘルナンデスはトロント・ブルージェイズ時代に、本塁打を打った選手をひまわりの種で祝うパフォーマンスを始めた。
その後、2023年のシアトル・マリナーズ時代を経て、2024年にはドジャースでも同様の演出を行うようになった。
本塁打を打ってベンチに戻ってきた選手に、チームメートがひまわりの種を浴びせる。水やスポーツドリンクをかける従来の祝福とは違い、ひまわりの種を使ったユニークなチームイベントだ。
ヘルナンデスは、このゲームにはストレスが多いため、楽しむことも必要だという趣旨を語っている。単なる間食だったひまわりの種が、選手同士の一体感を生み出すアイテムにもなっている。
【噛みタバコ規制】ひまわりの種が野球界で生き残った背景
メジャーリーガーがひまわりの種を食べる理由を理解するうえで、噛みタバコの歴史は欠かせない。
かつては噛みタバコを口に含み、唾液を吐き出す行為が野球選手の間で広く見られた。しかし、健康被害への認識が高まり、リーグや球場で規制が進んだことで、ガムやひまわりの種が代替となっていった。
2016年の労使協定が大きな転換点MLBとMLB選手会は2016年12月、新たな労使協定を発表した。この協定では、2017年以降にメジャーデビューする選手について、試合中のフィールド上でのタバコ製品の使用を全面的に禁止することが決まった。
対象となるのは噛みタバコだけではない。協定上のタバコ製品には、紙巻きタバコや電子タバコなども含まれる。
一方、2016年シーズン終了までにメジャーリーグで少なくとも1日の在籍実績があった選手については、一定の経過措置が設けられた。ただし、自治体の条例で禁止されている球場では使用できず、テレビインタビューや球団関連の一部イベントにも制限がある。
このため、「MLBでは全選手の噛みタバコが一律に禁止された」という説明は正確ではない。デビュー時期や球場の条例によって扱いが異なる。
2026年現在のタバコ規制はどうなっている?2026年現在、MLBと選手会の2022~2026年基本協約には、選手向けのタバコ使用規定が盛り込まれている。
同協約の付属文書では、2017年以降にメジャーデビューした選手について、すべての球場で試合中のフィールド上におけるタバコ製品の使用を禁止している。
また、地元の法律や条例でタバコ製品が禁止されている球場では、2016年以前から在籍していた選手にも規制が適用される。球場内でファンが入場できる時間帯には、選手がタバコ製品を隠すことも義務付けられている。
MLB選手会が公開する基本協約の付属文書では、こうした規定のほか、違反時の警告や罰金、禁煙支援についても定められている。
ここで押さえておきたいのは、ひまわりの種の普及が2017年の規制によって始まったわけではないことだ。1950年代にはすでに食べられており、レジー・ジャクソンによって人気が高まったのは1960年代後半から1970年代にかけてのことだった。
つまり、タバコ規制はひまわりの種を生み出した原因ではなく、すでに存在していた代替習慣を後押しした要因の一つなのである。
【食べ方】ひまわりの種の殻は食べる?ベンチで吐き出す理由
日本の野球ファンが初めてメジャーリーグのベンチを見たとき、疑問に感じやすいのが、選手が殻を口から吐き出す独特の動作だ。
実は、一般的なひまわりの種の食べ方では、殻は食べず、中の実だけを食べる。
ひまわりの種の基本的な食べ方殻付きのひまわりの種は、次のような手順で食べる。
種を口に入れる
殻付きの種を前歯付近に運び、横向きにする。
歯で殻を軽く割る
強く噛み砕くのではなく、殻に割れ目をつくる。
舌で中身と殻を分ける
殻を外し、中の食べられる部分を取り出す。
殻を吐き出して実を食べる
食べるのは中身だけ。殻は口の外に出す。
この動作を繰り返すことで、慣れた選手は複数の種を口に含んだまま、素早く殻を処理できるようになる。
MLB公式サイトでも、レジー・ジャクソンの特徴として、一度に複数の種を口に含み、プレー中にも殻を吐き出せるほど巧みだったという逸話が紹介されている。
ひまわりの種の殻を食べてはいけない理由ひまわりの種の殻は、食べられる中身とは異なり、硬くて消化されにくい植物繊維を多く含んでいる。
大量に飲み込んだ場合、消化管内で詰まりを引き起こす可能性があるほか、殻の鋭い破片が消化管を傷つけるおそれもある。
米国のNational Sunflower Associationも、殻は取り除いて中身を食べる方法を案内している。殻付きの種を食べる際は、殻を飲み込まないことが基本だ。
ベンチに殻を吐き出すのはなぜ?選手が殻を吐き出すのは、殻を食べないためだけではない。殻を割って中身を取り出すという食べ方そのものが、野球文化に組み込まれているからだ。
ただし、ベンチやブルペンに殻が大量に落ちれば、当然ながら清掃する必要がある。MLB公式サイトも、ひまわりの種が普及した結果、グラウンド整備や清掃を担当するスタッフにとって殻の処理が悩みの種になったと紹介している。
選手にとっては気分転換でも、裏方にとっては試合後の清掃作業が増える。ひまわりの種の習慣は、選手だけで完結するものではないのだ。
【2026年最新】MLBのひまわりの種習慣は現在も続いている?
2026年現在も、ひまわりの種はMLBを象徴するベンチのスナックとして知られている。
2026年10月23日付のYahoo Sportsの記事でも、メジャーリーガーが試合中に口にする代表的なものとして、ひまわりの種が取り上げられている。ガムなどの選択肢がある一方で、ひまわりの種は長年続く習慣として紹介されている。
加えて、2024年のドジャースのように、種を食べるだけでなく、チームメートを祝福するために使うケースもある。
現在の選手が食べているものはひまわりの種だけではない野球選手が口にするものは、ひまわりの種だけではない。
代表的なものには、次のような選択肢がある。
| 食べ物・嗜好品 | 主な目的・特徴 |
|---|---|
| ひまわりの種 | 殻を割る動作を楽しみながら気分転換 |
| チューインガム | 口を動かし続けられる |
| バブルガム | 噛む楽しさやチーム内の遊び |
| キャンディー | 甘味を楽しむ、口寂しさを紛らわせる |
| 噛みタバコ | 歴史的な習慣。現在は規制対象 |
The Atlanticの2024年の取材記事でも、現代のベンチではガム、キャンディー、ひまわりの種など、さまざまな食べ物が見られると紹介されている。
そのため、テレビ中継で選手が何かを噛んでいるからといって、必ずしもひまわりの種とは限らない。また、唾を吐く動作だけで噛みタバコを使用していると判断することもできない。
野球文化として受け継がれる理由ひまわりの種が長く残っている理由は、単に食べやすいからではない。
1950年代から続く歴史、レジー・ジャクソンというスター選手の影響、噛みタバコからの習慣の移行、そしてチームメート同士で共有する楽しさが重なっている。
若い選手がベテランの行動を見て同じように種を食べ始めることも、習慣が受け継がれる理由の一つだ。野球には、打席に入る前のルーティンや守備位置での独特の動きなど、長年の経験から生まれた個人的な習慣が数多く存在する。
ひまわりの種も、その一つとして選手の間で受け継がれている。
【プロの結論】ひまわりの種は単なるおやつではなく野球文化の象徴
メジャーリーガーがひまわりの種を食べる理由を、栄養面だけで説明することはできない。
むしろ、野球という競技の特性と、選手が試合中に感じる精神的な負担、長年受け継がれてきた習慣が組み合わさった結果と考えると理解しやすい。
今回の歴史から見えてくる要点は3つある。
第一に、1950年代のミュージアルとスローターが普及前史をつくり、レジー・ジャクソンが人気を押し上げたこと。ひまわりの種は一人の選手が突然生み出したものではなく、複数の世代によって定着した。
第二に、選手が求めているのは栄養だけではないこと。ベンチでの待機時間、緊張、退屈を紛らわせるための動作としても役立っている。集中力を高めるという効果を断定するより、選手自身が落ち着くために使う習慣と捉えるべきだ。
第三に、噛みタバコ規制によって、その文化的な価値がさらに大きくなったこと。タバコの使用が制限されるなかで、ひまわりの種やガムは口を動かす習慣を残す選択肢になった。
ひまわりの種は、野球の技術や勝敗に直接影響する道具ではない。しかし、選手の心理、チーム内のコミュニケーション、世代を超えた伝統をつなぐ存在になっている。
ベンチで種を食べる姿や、本塁打後に仲間へ種を浴びせる光景は、野球が単にボールを投げて打つだけの競技ではなく、独特の文化を持つスポーツであることを象徴している。
【よくある質問】メジャーリーガーのひまわりの種に関するFAQ
Q1:メジャーリーガーがひまわりの種を食べ始めたのはいつから?
A1:1950年代には、スタン・ミュージアルやエノス・スローターらが食べていたとされる。その後、1960年代後半からレジー・ジャクソンの影響で人気が広がり、1970年代以降に野球界の習慣として定着していった。
Q2:ひまわりの種を広めたレジー・ジャクソンとは誰?
A2:オークランド・アスレチックスなどで活躍した元メジャーリーガー。通算563本塁打を記録し、「ミスター・オクトーバー」の愛称でも知られる。1960年代後半からひまわりの種を食べる姿が注目され、普及を加速させた人物だ。
Q3:メジャーリーガーはなぜ試合中に唾を吐くの?
A3:主な理由の一つは、ひまわりの種の殻を吐き出すため。ガムを噛む選手や、唾液を吐き出す選手もいる。野球界では歴史的に噛みタバコの習慣もあったが、現在は規制が進んでいる。吐く動作だけで噛みタバコと判断することはできない。
Q4:ひまわりの種の殻も食べている?
A4:基本的に食べていない。歯で殻を割り、中の実だけを食べて、殻は吐き出す。殻は硬く消化されにくいため、飲み込まないようにするのが基本だ。
Q5:ひまわりの種を食べると集中力が上がる?
A5:噛む動作によって気分転換や緊張の緩和につながる可能性はある。ただし、ひまわりの種を食べることで集中力が医学的に向上するという確立した証拠があるわけではない。選手自身のルーティンとしての側面が大きい。
Q6:2026年現在もメジャーリーガーはひまわりの種を食べている?
A6:食べる習慣は現在も続いている。ひまわりの種だけでなく、ガムやキャンディーなどを口にする選手もいる。ドジャースの本塁打後の種まきパフォーマンスなど、チーム文化としても受け継がれている。
Q7:噛みタバコはMLBで完全禁止になった?
A7:全選手に対する一律の全面禁止ではない。2017年以降にメジャーデビューした選手は試合中のフィールド上でタバコ製品を使用できない。一方、2016年以前から在籍していた選手には一定の経過措置がある。ただし、自治体の条例による球場内の禁止規定などは別途適用される。
メジャーリーガーがひまわりの種を食べる背景には、1950年代のスタン・ミュージアルやエノス・スローター、1960年代後半以降のレジー・ジャクソンという歴史的な流れがある。
試合中の緊張や退屈を紛らわせること、口を動かすことで気分転換を図ること、栄養や塩分を摂取できることなど、選手にとってのメリットは複数ある。
加えて、噛みタバコ規制が進んだことで、ひまわりの種やガムは野球界における新しい定番として存在感を強めた。
2026年現在も、ベンチで種を食べる姿や、ホームランを打った仲間を種で祝福する光景は、メジャーリーグの魅力的な一場面だ。
次にMLBの試合を観戦するときは、選手が口にしているものだけでなく、殻を吐き出す動作やチームメートとのやり取りにも注目してほしい。そこには、70年以上にわたって受け継がれてきたアメリカ野球独特の文化が息づいている。