憲法改正は、国会で改正案を提出し、衆議院と参議院それぞれで総議員の3分の2以上の賛成を得たうえで、国民投票による承認を受けるという、厳格な手続きによって進められます。その根拠となるのが日本国憲法第96条と「日本国憲法の改正手続に関する法律」です。
2026年は、憲法改正をめぐる国会論議が新たな局面を迎えています。高市政権が改憲に向けた議論の加速を掲げる一方、衆参両院の憲法審査会では自衛隊の明記や緊急事態対応などをめぐる議論が続いています。また、2026年10月31日には国民投票法の改正規定も施行されました。ここでは、改正原案の提出から公布までの全工程と、2026年11月時点の政治状況を整理します。
【まず押さえる】憲法改正の流れは日本国憲法第96条が基本ルール

憲法改正の手続きを理解するうえで、最初に確認したいのが日本国憲法第96条です。一般の法律と憲法では、成立までに必要な条件が大きく異なります。
憲法第96条が定める2つのハードル日本国憲法第96条第1項では、憲法を改正する場合、各議院の総議員の3分の2以上の賛成によって国会が発議し、国民に提案して承認を得なければならないと定めています。
加えて、国民の承認には、特別の国民投票などにおける過半数の賛成が必要です。
つまり、憲法改正には次の2段階の承認が大切です。
- 第1段階:国会の承認:衆議院と参議院のそれぞれで総議員の3分の2以上が賛成する。
- 第2段階:国民の承認:国民投票で賛成票が投票総数の過半数を超える。
どちらか一方だけでは憲法改正は成立しません。国会が賛成しても、国民投票で過半数の承認を得られなければ改正できない仕組みです。
一般の法律改正とは何が違う?通常の法律案は、原則として各議院の出席議員の過半数によって議決されます。一方、憲法改正では、出席議員ではなく各議院の「総議員」の3分の2以上という、より厳しい賛成要件が設けられています。
加えて、通常の法律改正には国民投票が必要ありませんが、憲法改正では国民自身の承認が不可欠です。
この違いは、憲法が国家の統治機構や国民の基本的人権などを定める最高法規であり、政権や一時的な多数派の判断だけで容易に変更できないようにするためです。
【手順①】憲法改正原案の提出から衆議院・参議院の憲法審査会での審議まで
憲法改正の最初の具体的な段階は、改正する条文や内容を明確にした「憲法改正原案」の提出です。
単に憲法を変えたいという政治的な主張だけでは、正式な改正手続きは始まりません。どの条文を、どのような文言に変更するのかを具体的な原案として示す必要があります。
憲法改正原案の提出要件は衆議院100人・参議院50人国会法第68条の2では、議員が憲法改正原案を発議する場合の賛成者数について、次のように定めています。
- 衆議院:議員100人以上の賛成
- 参議院:議員50人以上の賛成
この人数は、憲法改正原案を議員提出するための要件です。ここで注意したいのは、この100人・50人という条件と、後の国会発議に必要な3分の2以上という条件は別物だという点です。
また、憲法審査会自体が憲法改正原案を提出することも、国会法第102条の7によって認められています。そのため、100人・50人という数字を、あらゆる提出方法に共通する絶対条件と理解するのは正確ではありません。
衆議院憲法審査会・参議院憲法審査会の役割憲法審査会は、衆議院と参議院のそれぞれに設置されている機関です。
日本国憲法や関連する基本法制について調査するほか、憲法改正原案や国民投票に関する法律案などを審査します。
審査会では、改正の必要性、条文の具体的な表現、法的な整合性、国民生活への影響などが議論の対象になります。与野党の意見が異なる場合には、どの論点で合意できるのか、どの部分に修正が必要なのかを検討することになります。
なお、憲法改正原案は、内容において関連する事項ごとに区分して提出することが国会法第68条の3で定められています。複数の論点を一括して扱うのではなく、改正する内容を整理して議論する仕組みです。
憲法改正の各段階と関係機関の役割| 段階 | 主体・関係機関 | 要件・役割 | 次の段階への関係 |
|---|---|---|---|
| 原案提出 | 国会議員・憲法審査会 | 議員提出の場合は衆院100人以上、参院50人以上の賛成 | 具体的な改正案を審議に付す |
| 原案審査 | 衆参の憲法審査会 | 条文や改正内容を調査・審査 | 各院の本会議での議決に進む |
| 国会での議決 | 衆議院・参議院 | 各院の総議員の3分の2以上の賛成 | 両院の最終可決によって発議 |
| 国民投票 | 日本国民の有権者 | 賛成票が投票総数の過半数を超える | 国民の承認が成立 |
| 公布 | 天皇 | 国民の承認を受けた改正を公布 | 憲法改正が正式に公布される |
このように、憲法審査会は改正内容を具体化する重要な役割を担いますが、審査会で議論が進んだだけで憲法改正が決まるわけではありません。最終的な国会発議には、衆参両院それぞれの本会議での厳格な議決が必要です。
【手順②】国会発議の条件は衆参両院それぞれ総議員の3分の2以上
憲法改正原案が提出され、必要な審議を経た後は、衆議院と参議院で議決が行われます。ここが憲法改正手続きの大きな関門です。
衆議院だけで3分の2を確保しても改正できない日本国憲法第96条は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成を要求しています。
つまり、衆議院で3分の2以上の賛成があっても、参議院で同じ条件を満たせなければ国会発議は成立しません。
例えば、衆議院で改正案が可決されても、参議院で否決された場合や、賛成が総議員の3分の2に届かなかった場合には、国民投票へ進むことはできません。
両院で修正内容が異なる場合にも調整が必要です。国会法には憲法改正原案に関する両院協議会の規定が設けられています。
3分の2以上は出席議員ではなく総議員が基準特に間違えやすいのが、賛成要件の分母です。
通常の法律案では、原則として出席議員の過半数が基準になります。しかし、憲法改正では「総議員の3分の2以上」が基準です。
そのため、審議に出席した議員だけを分母にして、3分の2の賛成があればよいという計算はできません。
また、衆参両院のどちらか一方での議決だけでは足りず、双方の承認が必要です。
国会発議が成立すると何が起きる?国会法第68条の5では、憲法改正原案について国会で最後の可決があった場合、その可決をもって国会が憲法改正を発議し、国民に提案したものとすると定めています。
この際、衆議院議長と参議院議長は、憲法改正を発議した旨と改正案を官報に公示します。
ここで初めて、国会での発議という段階に到達します。政治家が改憲に意欲を示したり、憲法審査会で条文案の検討を進めたりすることと、正式な国会発議は明確に区別する必要があります。
【手順③】国民投票はいつ?60日から180日以内に実施される仕組み
国会発議が成立すると、次は国民投票です。憲法改正の最終的な判断を国民自身が行う段階であり、日本国憲法第96条の重要な特徴でもあります。
国会発議から60日以後180日以内に投票する国民投票の実施時期は「日本国憲法の改正手続に関する法律」第2条で定められています。
国民投票は、国会が憲法改正を発議した日から起算して、60日以後180日以内に実施されます。
投票日を決めるのは国会です。発議後、国会の議決によって具体的な投票日が定められ、内閣を通じて中央選挙管理会に通知されます。その後、官報で投票日が告示されます。
60日から180日という期間が設けられているのは、国民が改正案の内容を理解し、賛否を判断するための時間を確保するためです。
国民投票の投票資格は満18歳以上の日本国民国民投票法第3条では、日本国民で年齢満18年以上の者に投票権を認めています。
つまり、投票資格の基本条件は次のとおりです。
- 日本国民であること
- 国民投票の時点で満18歳以上であること
外国籍の人は、日本国内に居住していても、この国民投票の投票権を有しません。
また、国民投票の投票資格と、通常の選挙における選挙権は、制度として別々に定められています。
賛成過半数とは何票?有効な賛否の投票総数が基準国民投票で改正案が承認されるためには、賛成票が投票総数の2分の1を超える必要があります。
ここで重要なのが、国民投票法第98条第2項の「投票総数」の定義です。これは、賛成票と反対票を合計した数を指します。
したがって、白票や無効票は、この賛否の投票総数には含まれません。
例えば、賛成票が550万票、反対票が450万票だった場合、投票総数は1,000万票です。賛成率は55%となり、過半数を超えるため国民の承認が成立します。
一方、賛成票と反対票が同数であれば、過半数を超えていないため承認には至りません。
また、国民投票法には最低投票率の規定がありません。投票率が何%以上でなければ投票結果が無効になる、という仕組みではなく、賛成票が賛否の投票総数の過半数を超えたかどうかによって判断されます。
国民投票で賛成多数になった後はどうなる?国民投票で承認が成立すると、内閣総理大臣は憲法改正の公布に必要な手続きを直ちに進めます。
日本国憲法第96条第2項では、国民の承認を経た憲法改正について、天皇が国民の名で、この憲法と一体を成すものとして直ちに公布すると定めています。
天皇の公布は、国民投票の結果を受けた憲法上の手続きです。改正するかどうかを判断する政治的な権限が天皇にあるわけではありません。
【2026年最新状況】憲法改正はどこまで進んでいる?国会論議と法改正の現在地
2026年の憲法改正をめぐる動きでは、政治的な改憲論議の進展と、国民投票を実施するための法律の整備を分けて見る必要があります。
2026年2月の衆院選で自民党が316議席を獲得2026年2月8日に投開票された第51回衆議院議員総選挙では、自民党が316議席を獲得しました。衆議院の定数465に対して、3分の2に相当する310議席を上回る結果です。
この選挙結果によって、衆議院では憲法改正発議に必要な賛成を確保できる可能性が高まったと受け止められました。
ただし、憲法改正には参議院でも総議員の3分の2以上の賛成が必要です。衆議院で多数を確保しただけでは、発議できません。
参議院の公式会派別所属議員数では、2026年6月30日時点で自由民主党・無所属の会が101人、日本維新の会が19人でした。両会派を合わせても120人であり、参議院の定数248に対する3分の2相当の166人には届きません。
そのため、参議院での改憲発議には、他会派や無所属議員を含めた幅広い賛同を得ることが大きな課題となっています。
自民党が掲げる憲法改正の4つの主要項目自由民主党は、憲法改正に向けた条文イメージとして、次の4項目を提示しています。
- 自衛隊の明記:憲法9条に自衛隊に関する規定を追加すること。
- 緊急事態対応:大規模災害などの緊急事態に対応するための制度を整備すること。
- 合区解消・地方公共団体:参議院選挙の合区解消や地方公共団体に関する規定を検討すること。
- 教育の充実:家庭の経済状況に左右されない教育環境の充実を目指すこと。
ただし、これは自民党が示している改正構想であり、4項目すべてが国会で正式に発議された憲法改正案という意味ではありません。
2026年11月の衆参憲法審査会の動き衆議院憲法審査会の第222回国会における会議日誌によると、2026年10月22日には憲法審査会の今後の調査に関係する海外制度の調査報告などが扱われ、10月29日には国民投票広報協議会の関係諸規程が議題となりました。
一方、参議院憲法審査会は11月4日に今国会初の討議を実施しました。
共同通信の同日報道によると、自民党の北村経夫氏は、自衛隊の明記を含む党の改憲4項目について、条文案の起草と議論の集約を進める必要性を主張しました。
これに対し、立憲民主党の小西洋之氏は、高市早苗首相が来年の自民党大会までに改憲発議のめどを付けたいとしていることを批判しました。与党の連立政権合意書に盛り込まれた、2027年3月末までの緊急事態条項に関する条文案の国会提出についても反対の立場を示しています。
また、国民民主党の上田清司氏は、参議院選挙における合区解消を優先課題の一つとして挙げました。
こうした動きからも、改憲を目指す方向性については一定の議論が進んでいるものの、各党が優先する項目や条文の具体的な内容には違いが残っています。
2026年10月31日には国民投票法の改正が施行2026年における制度面の重要な動きが、「日本国憲法の改正手続に関する法律」の一部改正です。
新藤義孝氏らが提出した第221回国会の衆法第11号は、2026年6月5日に提出され、衆議院では6月18日に憲法審査会で可決、6月19日に本会議で可決されました。参議院でも7月22日に憲法審査会で可決、7月24日に本会議で可決され、7月31日に令和8年法律第73号として公布されています。
この改正法は2026年10月31日に施行されました。
主な改正内容は、国民投票を実施する際の投票環境や運営方法の改善です。
- 投票立会人の選任要件の緩和:投票区の投票人名簿に登録された人に限らず、国民投票の投票権を持つ人から選任できるようになった。
- 開票立会人の選任規定の整備:開票区の区域に関係する市町村の投票人名簿に登録された人から選任できる仕組みを整備した。
- FM放送の追加:従来のAM放送に加えて、FM放送の設備を利用した憲法改正案の広報を可能にした。
ここで注意したいのは、2026年の法律改正は憲法そのものを改正したものではないという点です。国民投票の運営環境を整えるための法改正であり、国会発議に必要な3分の2、国民投票の賛成過半数、投票資格18歳以上、投票までの60日から180日という基本条件を変更するものではありません。
2026年11月時点で憲法改正は発議されたのか2026年11月上旬時点で、憲法改正に関する国会での討議や政治的な調整は続いていますが、衆参両院それぞれの総議員の3分の2以上による正式な憲法改正発議には至っていません。
高市首相は2027年春の自民党大会までに発議のめどを付けたいとの意欲を示しています。ただし、これは政治的な目標であり、憲法第96条や国民投票法が定めた法定期限ではありません。
今後の焦点は、衆参両院の憲法審査会で条文案をどこまで具体化できるか、各党間で合意を形成できるか、そして参議院でも発議に必要な賛成を確保できるかという点です。
【憲法改正の流れ】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:憲法改正には衆議院100人・参議院50人の賛成が必要ですか?A1:議員が憲法改正原案を提出する場合、衆議院では100人以上、参議院では50人以上の賛成が必要です。ただし、これは原案提出のための要件です。国会発議には、その後、衆議院と参議院のそれぞれで総議員の3分の2以上の賛成が必要になります。また、憲法審査会自身が原案を提出する制度もあります。
Q2:憲法改正の国民投票は発議から何日後に行われますか?A2:国会発議の日から60日以後180日以内です。具体的な投票日は国会の議決で決定されます。
Q3:国民投票で賛成過半数を得るには、有権者全体の半数以上が賛成する必要がありますか?A3:必要ありません。賛成票が賛成票と反対票を合計した投票総数の過半数を超えれば承認されます。白票や無効票はこの投票総数に含まれず、法律上の最低投票率も定められていません。
Q4:18歳になれば外国籍の人も憲法改正の国民投票に参加できますか?A4:参加できません。国民投票法第3条で投票資格が認められているのは、満18歳以上の日本国民です。外国籍の人は年齢や日本国内での居住状況にかかわらず、投票権を持ちません。
Q5:憲法改正が国民投票で可決されたら、誰が公布するのですか?A5:天皇が国民の名で公布します。これは日本国憲法第96条第2項に定められた手続きです。国民投票で承認された後、内閣総理大臣が公布のための手続きを進めます。
憲法改正の流れは、憲法改正原案の提出、憲法審査会での審議、衆参両院の本会議での議決、国会発議、国民投票、そして公布という順序で進みます。
特に押さえておきたい数字は、次の4つです。
- 100人・50人:議員提出による憲法改正原案の提出要件。
- 3分の2以上:衆議院・参議院それぞれで必要となる賛成要件。
- 60日から180日:国会発議から国民投票までの期間。
- 18歳以上・賛成過半数:国民投票の投票資格と承認条件。
2026年は衆議院選挙による議席構成の変化、憲法審査会での議論の進展、国民投票法改正の施行など、憲法改正をめぐる重要な動きが重なりました。しかし、政治的な改憲方針の表明や審査会での議論と、正式な国会発議は同じではありません。
【プロの結論】憲法改正の動向を正しく判断するには、政治家の発言や政党の公約だけでなく、①憲法改正原案が正式に提出されたか、②衆参両院で3分の2以上の賛成を確保できるか、③国民投票の日程が決定したか、という3つの段階を確認が必要です。
憲法改正は国会だけで完結する政治課題ではありません。最終的な承認権は国民にあります。今後は条文案の具体化と各党の合意形成、国民への説明がどこまで進むのかが、2027年に向けた大きな注目点になります。