マグロ漁船の死亡率を調べる際には、次の3種類の統計を区別する必要があります。
1. 海上保安庁が集計する漁船の船舶事故
2. 漁船からの海中転落による死亡・行方不明
3. 国土交通省が集計する船員の職務上の死傷災害
これらは対象となる事故や調査方法が異なります。
特に注意したいのは、一般的な漁船の統計には、遠洋まぐろはえ縄漁船だけでなく、沿岸漁業や沖合漁業などの船舶も含まれることです。
したがって、漁船全体の死亡者数を、そのままマグロ漁船の死亡率として扱うことはできません。
公的統計で分かること・分からないこと2026年11月時点で確認できる公的資料を整理すると、次のようになります。
- 漁船全体の事故件数:公表されている
- 漁船事故による死亡・行方不明者数:公表されている
- 漁船からの海中転落者数:公表されている
- 船員の職務上の死傷災害:公表されている
- 遠洋まぐろ漁船だけの年間死亡率:主要な公表統計では確認できない
つまり、死亡事故の発生状況や漁業の危険度は分析できますが、マグロ漁船に乗った人が1年間で死亡する確率を、全国共通の確定値として示すことはできません。
【2025年最新統計】漁船事故の死者・行方不明者は25人
2026年4月に公表された海上保安庁の2025年確定統計と、水産庁の水産白書には、漁船事故の実態を把握するための重要な数字が掲載されています。
2025年の漁船の船舶事故は356隻で、事故に伴う死者・行方不明者は25人でした。
2024年は464隻、死者・行方不明者22人だったため、事故隻数は108隻減少した一方、死者・行方不明者は3人増えています。
2025年の漁船事故・海中転落の比較出典:海上保安庁「令和7年における海難発生状況(確定値)」、水産庁「令和7年度水産白書」。割合は公表値から算出。
この比較から分かるのは、漁船は全船舶事故の約2割であるにもかかわらず、事故による死者・行方不明者では約6割を占めるということです。
事故の発生件数だけで危険性を判断できない理由が、ここにあります。
漁船の海中転落は特に深刻漁業における死亡事故を考えるうえで、見逃せないのが海中転落です。
2025年に漁船から海中に転落した人は60人。そのうち39人が死亡または行方不明になりました。
単純計算では、転落者の約65%が死亡・行方不明となったことになります。
ただし、この65%はあくまで海中転落者を分母とした割合です。漁船の全乗組員やマグロ漁船の船員が死亡する確率ではありません。
海中転落時のライフジャケット着用状況にも大きな差が見られます。
水産庁の2025年統計では、漁業者の海中転落時の生存率は次のとおりです。
海中転落時のライフジャケット着用による生存率
着用者81%
非着用者50%
出典:水産庁「令和7年度水産白書」。転落した漁業者の生存率の比較。
着用者の生存率は非着用者の約1.6倍です。
一方、2025年の海中転落時のライフジャケット着用率は約4割にとどまっています。
安全装備の効果が数字に表れているにもかかわらず、未着用による危険が残っているのが実情です。
【船員災害統計】漁船の死亡・行方不明と労働災害発生率
船舶事故の統計だけでは、漁船の労働環境を十分に把握できません。
そこで確認したいのが、国土交通省の「船員災害疾病発生状況」です。
この統計は船員法第111条に基づく報告を集計したもので、船内や船内作業に関連する場所で発生した災害・疾病を対象としています。
2024年度の漁船の船員災害2026年度船員災害防止実施計画に掲載された2024年度の実績では、次の数字が確認できます。
- 漁船の船員数:20,678人
- 漁船の死傷災害発生人数:215人
- 漁船の死傷災害発生率:1.04%
- 漁船の職務上の死亡・行方不明者:6人
この6人と船員数20,678人を単純に比較すると、約0.029%となります。
ただし、これは漁船全体の船員数を分母にした参考比率です。マグロ漁船だけの死亡率ではなく、国土交通省が独立した死亡確率として公表している数値でもありません。
漁業の労働災害発生率は陸上産業より高い水産庁の水産白書は、漁業における労働災害発生率について、陸上の全産業平均の約4倍以上という高い水準を示しています。
また、国土交通省の2024年度船員災害統計でも、漁船の死傷災害発生率は1.04%でした。
ここでいう発生率は、単に死亡した人の割合ではありません。職務上の死亡・行方不明者と、一定日数以上の休業を伴う死傷災害を対象とする指標です。
どのような労働災害が発生しているのか国土交通省の2024年度資料では、船員の死傷災害470人について、主な事故の型が次のように整理されています。
- 転倒:119人
- はさまれ:76人
- 動作の反動・無理な動作:53人
- 転落・墜落:52人
この4種類で全体の約63%を占めます。
加えて、死亡・行方不明となった職務上災害14人のうち、海中転落が5人で約36%でした。
漁船だけを見ても、死亡・行方不明者は6人で、そのうち海中転落が2人を占めています。
海上での仕事は、船舶の沈没や衝突だけが危険なのではありません。通常の漁労作業中にも、転倒や巻き込まれ、海中転落といった事故が発生しています。
【遠洋まぐろ漁業の危険性】仕事内容と死亡事故につながる要因
遠洋まぐろ漁業の危険性を理解するには、実際の操業方法を知る必要があります。
代表的な漁法が、遠洋まぐろはえ縄漁業です。
水産研究・教育機構の資料によると、この漁法では長い幹縄に多数の釣り針を付けた枝縄を取り付け、海中に投入してマグロを漁獲します。
まぐろはえ縄漁船の仕事内容代表的な遠洋まぐろはえ縄漁業の操業例では、次のような作業が行われます。
1.投縄作業
幹縄に浮標や枝縄を取り付け、餌を付けた釣り針を海中に投入します。
代表例では、幹縄の長さは約150キロメートル、釣り針は約2,500~3,000本に及びます。投縄には4~5時間ほどかかります。
2.縄待ち
投入した漁具にマグロがかかるのを待ちます。漁場や操業条件によって待機時間は変わります。
3.揚縄作業
ラインホーラーなどの機械を使用し、長い幹縄を船上に回収します。
マグロがかかっていれば、魚を船上に取り込む作業も発生します。代表的な操業例では、揚縄に10~15時間ほどかかる場合があります。
4.魚の処理・冷凍
漁獲したマグロの処理を行い、血抜きや急速冷凍を経て船内の魚倉に保管します。
これらの工程は、水産研究・教育機構のまぐろはえ縄漁業の解説資料にも紹介されています。
マグロ漁船で注意すべき5つの危険
1.船体の揺れによる転倒・転落
海上での作業は船体の動揺を受けます。足元が不安定な状況での長時間作業は、転倒や海中転落のリスクにつながります。
2.漁具や機械への巻き込まれ
長い幹縄や枝縄、巻き上げ機などを扱います。機械への挟まれや巻き込まれは重大な労働災害につながり得ます。
3.気象・海象の急変
波や風の影響を受ける洋上作業では、気象条件や船体の状態に応じた安全判断が欠かせません。
4.長時間の漁労作業
投縄、揚縄、魚の処理など複数の作業が続きます。疲労の蓄積は注意力や作業の安全性に影響します。
5.陸上と異なる救急対応環境
遠洋漁業では、陸上の職場と違い、事故現場から医療機関までの距離や通信・救助体制が問題になる場合があります。
これらはマグロ漁船の仕事内容と、漁業全体で確認されている労働災害の特徴を組み合わせた危険要因です。個々の船の事故率を示すものではありません。
遠洋漁業は航海期間の長さにも注意が必要遠洋まぐろ漁業では、漁場が日本から遠く離れた海域にあります。
水産庁が2025年度水産白書で紹介した事業者の事例では、サンマ棒受網漁業と遠洋まぐろはえ縄漁業を組み合わせ、1航海の日数を約170日に短縮する操業モデルが紹介されています。
この事例は、遠洋漁業の航海期間や雇用の安定性が、操業形態によって異なることを示しています。すべてのマグロ漁船が同じ航海日数で運航しているわけではありません。
【プロの結論】マグロ漁船の死亡率を判断するときの要点
マグロ漁船の危険性を正しく判断するには、単純な死亡者数だけでは足りません。
重要なのは、船の種類、航海期間、作業内容、船員数、事故防止体制を合わせて見ることです。
誤解しやすい3つのポイント誤解1:漁船事故の25人がマグロ漁船の死亡者数である
これは誤りです。
25人は2025年の漁船全体の船舶事故に伴う死者・行方不明者数です。マグロ漁船だけの人数ではありません。
誤解2:海中転落者の65%が死亡・行方不明だから、マグロ漁船の死亡率も65%である
これも誤りです。
65%は漁船から海中に転落した人を分母にした数字です。通常の乗組員全体に対する死亡確率ではありません。
誤解3:漁業の労働災害発生率が約4倍なら、死亡率も4倍である
これも正確ではありません。
労働災害発生率は、休業を伴う負傷なども含む指標です。死亡率とは別の概念であり、両者を混同してはいけません。
マグロ漁船への就職を考える場合の確認事項求人情報や船会社を調べるときには、次の点を確認が必要です。
- ライフジャケットの着用が徹底されているか
- 海中転落時の救助訓練が実施されているか
- 漁具や巻き上げ機の安全設備が整備されているか
- 船内の作業時間や休息時間が明確か
- 船員保険や労災補償などの制度が整っているか
- 緊急時の通信・救助・医療体制が確保されているか
- 船内の居住環境や衛生管理に問題がないか
2026年度の船員災害防止実施計画でも、漁船の安全対策として、ライフジャケットの着用、AISの普及、基本訓練、安全推進員の養成などが掲げられています。
危険な仕事だからすべての船が危険というわけではありません。しかし、会社や船ごとの安全管理体制を確認せずに就職先を選ぶのは避けたいところです。
【マグロ漁船の死亡率】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:マグロ漁船の死亡率は2026年現在、何%ですか?
A1:マグロ漁船だけを対象とした全国共通の公的死亡率は確認できません。参考として、国土交通省の2024年度統計では漁船の職務上死亡・行方不明者は6人、船員数は20,678人でした。単純比率は約0.029%ですが、マグロ漁船だけの数値ではありません。
Q2:2025年に漁船事故で亡くなった人は何人ですか?
A2:海上保安庁の確定統計では、2025年の漁船事故に伴う死者・行方不明者は25人です。加えて、船舶事故以外の理由による漁船からの海中転落では、60人中39人が死亡または行方不明となっています。
Q3:遠洋まぐろ漁業は一般的な漁業より危険ですか?
A3:遠洋まぐろ漁業には、長時間の投縄・揚縄作業や機械操作、洋上での作業など特有の危険があります。ただし、マグロ漁船だけの事故率と一般漁業の事故率を比較できる公的データが確認できないため、死亡率が何倍高いといった断定はできません。
2026年最新の公的資料から見えてくるのは、漁船の事故や労働災害が依然として深刻な問題であるという実態です。
特に重要な数字を振り返ります。
- 2025年の漁船事故:356隻
- 2025年の漁船事故による死者・行方不明者:25人
- 2025年の漁船からの海中転落者:60人
- 海中転落による死亡・行方不明者:39人
- 2024年度の漁船の船員災害発生率:1.04%
- 漁業の労働災害発生率:陸上の全産業平均の約4倍以上
最も大切なのは、漁船全体の事故統計と、マグロ漁船固有の死亡率を混同しないことです。
死亡率という一つの数字だけを追いかけても、遠洋まぐろ漁業の実態は十分に理解できません。
事故の種類、海中転落の発生状況、船員の労働災害、ライフジャケットの着用状況などを総合的に見る必要があります。
2026年以降も、漁船の安全管理、救命設備の普及、船内労働環境の改善が重要な課題となります。マグロ漁船への就職や乗船を検討する場合も、給与や漁獲量だけではなく、安全対策と労働条件を具体的に確認することが、自分の命を守るための判断基準になります。